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平家物語のhasseのレビュー・感想・評価

平家物語(2021年製作のアニメ)
4.3
平氏って現代でいうとマフィアに似ている。武力でのしあがり、日宋貿易で儲けたり、朝廷という権力者に取り入って政治的権力を握ったり、朝廷を脅かす存在(仏教勢力)を牽制したりする。
そういう物騒な成り上がり集団、社会的必要悪としての平氏の内側、つまりファミリーとしての平家の悲喜こもごもを描いたのがアニメ『平家物語』。ちょっと『ゴッドファーザー』っぽい。
四季折々の風景をバックに、「滅びの美学」的な切なさに、平家の一人一人の苦悩や喜び、覚悟が加わり見事な群像劇となっている。それから、今様や琵琶の弾き語りに、ロック、EDM、チルアウトっぽいBGMと、多層的な音楽世界が広がっているのも魅力的。

●びわの「語り」=「祈り」
未来が見える少女びわは、平家に溶け込みながら傍観者として平家を見つめる。一度は平家の没落に巻き込まぬよう資盛の計らいで放逐されるが、生き別れたと思っていた母親との再会で平家の行く末を見届けることを決意する。平家の人間が病や戦で死ぬたびに己の無力を嘆いていた彼女は見届け、語り継ぐことが使命だと見いだす。壇之浦の戦いで平家が滅ぶとびわの両目は塞がる。彼女の役割は「見る」フェーズを終え、次の「語る」フェーズへと移行する。彼女にとって「語る」行為は死者への祈りである。神仏の前で手を合わせることではなく、死んでいった者たちを語りを通して語り手と聞き手のあいだに現前させること。それもまた祈りの一つの形なのである。

●平徳子の覚悟
清盛の娘、高倉天皇の妻、安徳天皇の母である徳子。作中、激動の時代の中で一番どっしり構えてぶれなかったのは彼女かもしれない。都落ち、西走、壇之浦へと栄華を転げ落ちていき、皆が戦意喪失するなかで、徳子は「絶対に帝(息子)を守る」と覚悟を決めている。武家の娘でありながら天皇家の人間である彼女は、自害という武家ロジックに染まりきることができなかったのだろう。平家として、天皇家として、そして母として。複雑な立場を抱えながら息子を守るという一心を貫かんとした徳子が気高く美しい。壇之浦で死ぬことを許されなかった徳子は仏門に入り、彼女もまた祈りの生活を送ることになる。以下、徳子の名言。
「許すというのは上から目線だが、誰かが許さねば乱は収まらない。だから私は許す」
「望まぬ未来が悪いとは限らない 望みすぎて失っていった者を見てきた」
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