たも

猫物語(黒)のたものネタバレレビュー・内容・結末

猫物語(黒)(2012年製作のアニメ)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

 羽川翼好きな人にとってはご褒美な作品。不憫なだけでも可哀想で可愛いのにあんな格好で猫耳つけた清楚なイメージと正反対のブラック羽川を見て萌えない人類はいない。
 暦のセリフや立ち振る舞いもカッコいいとは思った。柄や鍔の付いていない刃渡り170cmくらいの妖刀「心渡」もはや文字だけでもかっけえ。
「僕は下着姿で徘徊する女子高生に欲情してるだけなんだよ」文字にするとめちゃくちゃだけど映像や声が合わさるとかっけえ笑

 肝心の話の内容ははっきり言って共感できなくてモヤモヤした。それだからつまらないってわけじゃないんだけど、筋の通し方が西尾維新さんにしては珍しく歪でどこか不安定さを感じる構成だと感じた。
 そもそも原作は物語シリーズのアニメ化前までは、化物語、傷物語、偽物語しか出版されていなかったから、今作は本編へ辻褄を合わせる為に産み落とされた作品という解釈をしてしまった。この前提を覆さなければ素直に楽しむことはできないのかもしれない。

 化物語、偽物語と今作を比べるとシリアス9:1ギャグくらいの割合なのも新鮮かも。4話だしギャグを挟めるほど軽い話じゃないからいい塩梅なのかもだけど。

 化物語と偽物語までの話を理解していれば今作の出来は上手く話が成立していると解釈されて然るべきって感じだけど、話の内容が羽川翼の存在そのものみたいに矛盾を孕んでいて、娘が親父に殴られて「ダメだよお父さん、女の子を殴っちゃ」って親を諭してしまうくらい気持ちの悪い作品だった。

 色んなことをなんでも知っているし、人として尊敬できる人格者、だけど倫理的にどこか欠落している。
 そんな羽川翼は僕のことを好きになるわけがないっていう暦の思い込みはどこで発生してるんだろう。一度はHさんへの思いは恋だと月火ちゃんに決定までされていて、いつでもそばにいたくて、その人のために死にたいとまで思い、初恋ではない何かは失恋をしたってセリフで今作を締めくくっている。暦の感情に全くもって共感できない。
 恋の形は人それぞれあると思うけど、個人的に羽川に抱いている感情が恋愛感情ではなく、信仰に近い憧れみたいなものだったとしたら、今までオレ自身がしてきた恋愛も恋愛ではなくて、ただの異性への期待みたいな、男にはないものを持っている世界観への憧れ、みたいなことに言葉を言い換えるしかないのかも。いままで好きになった人たちのこと、本当は恋愛じゃなかった……?まさか恋の定理を見直すことになるとは(笑)

 もしかしたら正義マンのあららぎくんは怪異のせいにして暴れたいと思った羽川の心を許せないのかもしれない。表にはでないし、深層心理的に幻滅して遠ざけたいと思っていたのかも。
 よくよく考えれば暦も半吸血鬼で常人離れした回復能力を持ち合わせている化物サイドとして羽川には仲間意識みたいなものを持ったけど、闇落ちして手当たり次第に人を襲うなんて極悪非道に落ちた羽川を可哀想なんて思えるはずもないし、救ってやると思うことよりも気が済むまで代わりに不条理を受け取ってやるって選択したのは至極真っ当だったのかもしれないと、この感想を書いているうちに思ってきた。

 ただ化物語の最初2.3話くらいで戦場ヶ原とあんな簡単に付き合い始めて好きになるのに、いつもそばにいたいし好きだと思っていた人とは付き合いたいと思うことにすら至らないのは不思議で仕方ない。ラブコメにマジレスしてる時点でお察しって感じかもだけど(笑)

 まるで生活感のない部屋で共存する異様な家族の中で形成された歪な人道主義のパーフェクト人間。そんな人間が障り猫を取り込んで自分の意思で暴れ回って、その後ブラック羽川だった頃に起こった大事な記憶を記憶喪失で片付けてるところが1番腑に落ちてないのかも。

「良いよな?羽川、僕たちみんなろくでもないけど、すっげえ不幸で、めちゃくちゃ報われなくて、取り返しなんかぜんぜんつかないけど、一生このままなんだけど、それで良いよな?」
「良いわけないでしょ」

 このやりとりも言ってみれば友達として、恋人にはなれませんって遠回しに宣告してるように受け取れるかも。考えすぎ?

 そもそも人間はある事柄が生じた時にすべからず理由や原因や解釈の仕方を求める。意味を付けなければ納得できないから共感できないのは当たり前なのかもしれない。とどのつまり今作は可哀想な羽川翼を可愛いと愛でるための作品。暦は逆に絶対に可哀想なんて思ってやらないし同情して欲しいと願っている羽川に自分を殺させるっていうムチを打とうとする、羽川と暦のすれ違い、視聴者と暦のすれ違い、それがこの作品に抱いた不信感に繋がった気がする。

「阿良々木君は私のヒーローになってくれないんだ」

 化物語の終わりで障り猫本人が好きバレを暦にカミングアウトしていたけど、暦のいつからって問いに、ゴールデンウィークからと答えていた。つまりゴールデンウィークになにが起こったかは覚えていない。だけどその時は暦が助けてくれた、あ、恋愛感情的に好きかも。って思ってたら、ゴールデンウィークで既に暦にはフラレていて、いつのまにかクラスになかなか顔も出さない自分より暦との距離も関係も浅いであろう戦場ヶ原ひたぎに略奪愛されたるっていう未来を含めて救いがなさすぎて羽川翼可愛い。
 
たも

たも