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ミッドナイト・ゴスペルのoxiboiのレビュー・感想・評価

ミッドナイト・ゴスペル(2020年製作のアニメ)
5.0
個人的Netflix史上ダントツで衝撃を
受けた作品。

ウォードがダンカン・トラッセルというコメディアンが配信しているインタビュー形式のポッドキャスト『Duncan Trussell Family Hour』に触発され、そのインタビューをアニメーションにすることを思いつき実現した。基本的に1話完結で、トラッセル自身が主人公のクランシーを演じている。

シミュレーターを使って、広い宇宙に散らばる不思議な惑星をまわり、生と死、そして存在にまつわる疑問を解き明かす宇宙キャスターの主人公クランシー。

インタビューのテーマはゲストに応じて様々で、ドラッグ依存症のスペシャリストや作家、瞑想のプロや冤罪で死刑判決を受けた人物から、トラッセル本人の母まで多彩な顔ぶれだ。

インタビューテーマは、依存症や死、オカルトや魔術などのスピリチュアルなものから、瞑想の効用、仏教から葬儀などの死の産業についてなど、死や心の問題を扱ったものが多い。トラッセルのポッドキャストはより広範なテーマを扱っているが、本作ではこうした精神系の内容が選ばれている。

本作の最もユニークな点は、インタビュー内容とアニメーション映像の中で起きていることが一致していない点だ。例えば、映像ではゾンビを激しい戦闘を繰り広げながら、会話の内容は薬物の依存症についてだったり、食肉工場で肉にされそうになりながら、身近な人の死に直面することについて語り合ったりしている。音声と映像のイメージの乖離しているのだ。
これについてウォードは「終末的な状況でも人は終末や自省的なことを語るとも限らない」のではないかと発想したそうだ
音声内容をそのまま映像にするのではなく、鑑賞者のイメージを撹乱・拡大させるように自由な発想で映像を組み立て、音声と映像がせめぎ合うような作品になっている。

本作が驚くべき点は、このアニメーションのメタモルフォーゼを用いて、死と輪廻転生といった壮大なテーマに到達してみせるところだ。主人公のクランシーはアバターを変え続け、絶えず変化する世界の中で、戦争や死の産業、身近な人の死の話を通じて死とは何かを思索し、瞑想や仏教、オカルト魔術の話で精神のありかを探る。そして最終話で母の死に直面する。

本作は、キャラクターも世界も絶え間なく変容する。最終話では母と対話しながら主人公の姿は子どもから青年、老人へと変化し、さらには妊娠する。そして主人公が生んだ子どもは母親の生まれ変わりでインタビューは続いてゆく。何にでも変化しうるアニメーションがこうして輪廻転生へとつながってゆき、生命の神秘という宇宙規模のテーマへと拡大してゆく。音声だけなら身近な者の死という極めて個人的な事柄にとどまっていたものが、アニメーションの原形質性によって壮大なテーマと接続されてゆくのだ。

 ビジュアルの変容とともに多義的な解釈も存分に可能な作品で、いかなる意味にも固定されないという点で、エイゼンシュタインが語った本来的な意味における原形質性を持った作品と言えるだろう。ただのシニカルなジョークを連発するアニメーションではない、壮大な宇宙と生命の神秘の一部に我々自身も含まれるのだという変性意識を叩き込む驚異的な作品だった。
個人的シラフだと難しいというかついていけなかった...
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