きまぐれ熊

サイバーパンク エッジランナーズのきまぐれ熊のレビュー・感想・評価

4.6
この作品を観るためにNetflixに加入する価値はあるとお薦めできる位には良かった。


シナリオもキャラクターも世界観も美術もサウンドも褒めたい所だらけ。
もちろんゲームタイアップとしてのリスペクトと愛情も完璧レベル。ゲームで聖地巡礼できるんだからすげーよ。bgmもゲーム内音楽を採用してるとは思えない親和性。

デイビット・ルーシー・レベッカの3人は特に演技がよかった。脇をテンプレ的なベテラン吹き替えボイスで固めておいて、メイン役がナチュラル系演技なの超お洒落な設計。


いい所だらけだから、特に最もいいなって思ったポイントを書こうと思う。
それが、アニメーションならではの狂気の表現。

目玉が分身しまくる事でサイバーサイコシスという精神異常を表現するんだけど、アニメーションをやってるレイヤーの手前にコピペの様に分裂した目玉が塗りたくられる。アニメの階層よりこっちに見える表現なので、一種の第4の壁を超えたメタ表現になってるんだよね。
ブロックノイズとかテレビの砂嵐も、現実の現象を作品内に取り入れる事でリアリティを感じさせるメタ表現だったけど今では一般的すぎて、もはやエフェクトとして共通認知に近い。
今回の目玉コピペはそういう、フォロワーが現れていつか一般的に受け入れられる表現になる可能性を感じるくらい良かった。

しかもこの表現、最終話でルーシーがデイビットの狂気を抑えるシーンの説得力にも繋がっていて、あのシーンはアニメーションでしかやれない表現だったと思う。痺れた。


演出関連で言えば、不意を突くような衝撃的な展開の間の取り方が凄まじかった。
重要なキャラが死ぬシーンだったりとか、唐突に盛り上がる最終話のいくつかのシーンにおいて感じたんだけど、意識の隙間のシーンでぶっ込んでくる。
進撃の巨人におけるライナーの告白とかに近いイメージ。最近こういう演出でやられること増えたな。
大事な死のシーンで3連プレイバックしてくるのはむしろ慈悲を感じる。あれが無いと当然、唐突すぎて気持ちがついていけない人多いと思う。


物語のテーマで言えば、
・行き過ぎた資本主義における、もはや中世のような階級格差社会の残酷さ
・子供に成功を託す親
の要素が強くて、そのクソッタレな土台の世界観に恋が被さってる感じ。

特に資本主義の残酷さから一切嘘をつかない結末が本当に良くて、余韻が強く残る内容になっている。

デイビットはお母さんから成功を託されている事がずっとしこりになって残っている訳だけど、軽率に親の呪いとして描かず、良いとも悪いともアンサーを出してない所も大人向け。最終話のルーシーに対するデイビットのセリフを聞いてちょっと色眼鏡で見てたのかも...って反省した。

デイビットを中心とした恋模様もセリフで説明せずにキャラの思いやりを感じられる内容になってて大人向け。特にレベッカは粗野なセリフと裏腹に表情で語りまくってるので心情を想像すると辛い。


あと新鮮だったのはトリガーでよく見るギャグっぽい作画の大群ドタバタアクション。
無慈悲な殺戮シーンもあのノリでやるのに違和感がないのが興味深かった。
いつものあの作画のままなのにシナリオの重さのお陰で諸行無常を感じさせるものになってる。
ガイナックスから継承されてるあの動き、シリアスなシナリオでもいけるんだな...。命の価値が安い世界観だからマッチしてたのかもしれないけど。
きまぐれ熊

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