都部

トモちゃんは女の子!の都部のレビュー・感想・評価

トモちゃんは女の子!(2023年製作のアニメ)
3.2
原作の連載開始は8年ほど前であるからか、自分を異性と思わない親友の幼馴染男子を意識べくボーイシュな主人公が友人の助力を経て女の子らしく成ろうとするという筋書きは若干の古臭さを感じさせるものの、全13話の構成の中で今までの関係を手放して他の関係に至ることの葛藤の機微が的確に抑えられていたので悪くない完成度だと思う。

拡張を続ける私個人の性的嗜好に基づく思考形態は、"同性にモテるボーイシュ女だが中身は乙女であるから容姿を褒められると他人に照れの姿勢をあっさり見せるおっぱいのデカい一途なヒロイン"を目にすると、NTRの始まりを想起するが本作にそんな要素はほぼなく異性愛としては健全すぎるほどのじゃれあいが本編では展開されている。

主人公トモによる可愛い女の子化の為のアプローチは正直普遍的なものばかりで拡張性も面白味もないが、脇を支える彼女の友人の群堂みすずとキャロル・オールストンが狂言回しを務めることで、観客と同じ所感を抱く第三者の視点を交えたラブコメディの滑稽性を浮き彫りにしたそれが出来上がり幾ばくか面白さを底上げしているのは良好だ。サブプロットとして配置されている みすずの友情観やキャロルの個人的恋愛も本編に有機的に絡むので、物語に多層性を与えているのはこの二人の存在がかなり大きいと言えるだろう。

本作の問題点を一身に担う男━━トモが好意を寄せる久保田淳一郎の話をすると、主人公が熱心に好意を向けるに足ると言える魅力を本編内で発揮できてるとはやはり思えない。序盤〜中盤にかけてトモに対する好意に無自覚である彼は、彼女を女性として扱わない割に相手からのボディタッチに過敏であったり(その癖 自分はするというアンバランスさ)彼女に好意を寄せる他者を独善的に脅すような仕草が見られるのは良くも悪くも子供っぽいと言える。ティーンエイジャーが主体の恋愛物のヒロインとしてよくある性格だが、これを男に転用するとここまで見るに堪えないと感じるものになるのかというある種の発見があった。

昨今 ラブコメディはヒロインだけでなく男性キャラも好きになれるような造形でなくてはならないと言われがちだが、正確には読者に好かれる必要性はないと思っていて、大事なのは作中人物が心を奪われるほどに個性的で魅力的な造形をどれだけ晒せるかにある。そういう意味では本作の彼はそれを果たしているとは言い難く、他人の優しさや好意に甘えた立ち振る舞いは作品に対する好き嫌いを大きく分ける要因である。

とはいえ1クールで完結する恋愛アニメとしてはやはり程よく纏まっている作品なのは事実で、前述した粗筋に惹かれるようならば見て損はないのではないだろうかと思う。
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