きまぐれ熊

Tekken:Bloodlineのきまぐれ熊のレビュー・感想・評価

Tekken:Bloodline(2022年製作のアニメ)
3.9
全体的にはクオリティの高い映像作品だと思うけど、おそらく鉄拳に触れたことがなければどこが面白いのか理解できないまま6話を見終えてしまうであろう内容。

ゲームシリーズプロデューサーである原田勝弘氏が監督に(監修ではなく)クレジットされているだけあってアクションシーンにおけるモーションとエフェクトの再現度は非常に高い。
動きは当然のこと、各キャラごとにヒット時に出るエフェクトがゲームそのまま。細かいことにガード時のものまで再現されている。

ストーリーは鉄拳3の内容をきっちりなぞっていて、それどころかテーマ性をちゃんと付加していて、仁を主人公とした物語として最低限のものを成立させている。ゲームオリジナルのストーリーはマルチエンドであるが故に、格闘技大会を成立させるための最低限の言い訳を成り立たせている程度のハリボテでしかなく、それを物語として成立させているのは原作に対するリスペクトとしか言いようがないだろう。とても丁寧な仕事だと思う。

鉄拳シリーズの物語はバケモノ親子の三代における親子喧嘩が軸になっている。
悪党同士の親子喧嘩に唯一まともな倫理観の孫が乱入してきたのが3で、以降親子3代における破天荒遊戯が繰り広げられている。物語における因果応報といったものはまるで存在しておらず、ストーリー面でカタルシスを得られるものは存在していない。毎回ぶん投げエンドなので、言ってみれば、エンドゲームのないMCUの様なものだ。引きの強さだけで毎回エンディングを作っているのがゲームシリーズの正直ぶっちゃけた印象だ。

そんな破天荒シリーズを1つのテーマ性を持って最低限物語として成立させているのだから大したものだ。さすがは原作プロデューサー。アニメ制作における各セクションの原作に対する愛情も確かに感じられたので、3DCGに興味がある人は見ておいて損はないだろう。
古の前作ブラッドベンジェンスと比べると3DCGアニメーションの未来は明るいと感じられること請け合いだ。ただ単純にCG解像度の鮮明さでアピールする時代は終わり、3DCGアニメはゲームの再現という、コンセプト上見せたいものを見せるために拘る、というフェーズに移ってきているのだ。解像度にこだわる時代はもう終わったのだ。

ちなみにシナリオ面で補足しておきたい。おおよそまともではないので。
主人公の仁にとってのヒロイン女子高生・シャオユウや、ライバルキャラ・ファランといった仲間キャラが彼には居るが、彼らとの出会い・交流をダイジェストであっさりと流し、祖父である暑苦しいジジイ・平八との修行パートを優先するという作りになっている2話はオーソドックスな作劇としては前代未聞である。キャラ間の関係性なんかより泥臭い修練をとると言うことが、このアニメが新規視聴者ではなく今なお泥臭い修行を重ねている格ゲーマー勢に捧げられた映像である事が分かるだろう。そういうアニメ作品だ。
とはいえそこまでして向けた愛が格闘ゲーマー勢に届いている様には他の感想を見ていて感じなかった。彼らの評価は非常に辛辣なものが多かった。
そういったことを踏まえても個人的には新規向けに作るべきだったと思う。内輪に向けて作っても文化は腐敗していくだけだと思う。
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