悠

陰陽師の悠のレビュー・感想・評価

陰陽師(2023年製作のアニメ)
2.0
陰陽師の安倍晴明と雅楽家の源博雅のコンビが平安京で起きる面妖な事件の数々を解決していく、夢枕獏原作の伝奇小説シリーズのアニメ化作品。
アニメ版は原作のエピソードをいくつか抜粋した上で多少改変した作りになっています。原作は伝奇小説の中でも個人的に一二を争うほど好きな作品で、陰陽師を主人公にした作品群の先駆けであり、これまでに映画、ドラマ、漫画とメディアミックスされてきていて、長年アニメ化を心待ちにしていた作品でした。しかしアニメ版を視聴してみた率直な感想としては、原作小説の魅力を全く活かしきれていない駄作と言わざるを得ませんでした。以下、めんどくさいオタクのただの愚痴ですがご容赦ください。
まず、キャラクターデザインが解釈違いも甚だしいです。なんで平安時代やのに安倍晴明の髪に金メッシュ入っとんねん…蘆屋道満なんで女体化しとんねん…鬼の見た目ステレオタイプにデフォルメしすぎやねん…。キャラデザ次第でその作品の世界観は大きく変わります。夢枕獏の陰陽師の世界観は確かにファンタジーではありますが、物語の紡ぎ方は写実的であり、あくまで現実世界に足をつけた上で読み手に「もしかしたら本当に鬼や妖は存在していたのかもしれない」と思わせるのがとても巧妙な作品です。此岸と彼岸の境界が非常に曖昧で、それが魅力の作品です。それをのっけから漫画感全開のデフォルメされすぎたビジュアルでキャラクターを描いてしまえば現実的な説得力はなくなり、つまらない完全なフィクションに成り下がってしまいます。
漫画やアニメはメディアの中では最も非現実的なものとはいえ、岡野玲子さんの漫画版は夢枕獏先生に原作超えと称賛されるほど素晴らしかったですし、アニメ化するのなら理想を言えば近年で言えば『平家物語』のような、写実的な中に人の表情や草花の動きなどアニメならではの繊細な表現ができている作品を目指してほしかったです。
もう一つ致命的なのが、原作の静と動の描写を完全に履き違えているところ。この作品の魅力の9割は静の描写にあると言っても過言ではありません。それは登場人物達の会話の間であったり、うっとりするような情景描写であったり、時間の流れの緩やかさであったり様々です。アニメ版はこの静の描写をほとんど無視していて、例えるならさめざめと泣く様なシーンでズンドコズンドコとやかましく太鼓を打ち鳴らす様なことをやってのけています。
静の描写を大切にする原作を例にとれば、各話の導入部分は概ね以下のような流れで進んでいきます。

晴明の屋敷に博雅がふらりと遊びにやってくる→縁側で花月を眺めながら酒を酌み交わし、他愛もない会話をする→やがて会話が事件の話へと発展していき、解決へと赴く前にはこの文言で導入が締め括られる。

「ゆこう」
「ゆこう」

そういうことになった。

…アニメ版にも一応この様な流れはありますが、原作では時間の流れがゆったりとしていて心地良く会話も小気味良いのに対し、アニメ版は忙しなく風情もクソもありません。晴明と博雅の距離も大した会話もエピソードもないまま急速に縮まっていくので、感動の友情シーンでも全く気持ちが入りません。また、晴明は原作に比べ博雅に対してどこか他人行儀で、博雅は龍笛を吹くシーンが毎度同じ旋律ばかりな上に、管絃の名手と謳われた人物には素人耳でも程遠いと思える様な酷い音色です。タイタニックのテーマをリコーダーで吹く例のアレを思い出しました。
いろいろと書き殴りましたが結論、アニメ版はクソ!原作は最高!
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