青

攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEXの青のレビュー・感想・評価

攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX(2002年製作のアニメ)
3.3
10年ぶりくらいに見直した。
テーマをつけるとしたら、「模造品と本物」のような感じだろうか。笑い男に触発された偽物たちが次々と本物の笑い男を演じる一方で、偽物に先立つ本物の笑い男なんてものは存在しなかった。事件が社会に与えたインパクトの強さと、偽物が本物を模倣するその反復によって、存在しないはずのオリジナルが強化されるという図式がある。模倣品がオリジナルらしきものを反復することで、実在しないはずの本物があたかも実在するかのように実体化するという運動の物語である。
そしてその模倣品対本物の図式と、本物とは本当に実在しているのか?という疑惑が、義体によって姿を変えられ、電脳によって感覚や記憶すら操作できる人間の自己をも侵食している。9課のメンバーのように高度に義体化・電脳化された人間には、義体と電脳(模倣品)に先立つような、オリジナルな存在であり固有の記憶を持った自己(本物)は実在するのかという不安がある。

一話:必要なのは大臣の外見だ
二話:肉体的な死を乗り越える技術者
三話:ロボットに自我は宿るのかという問い。他方で、オリジナル(映画)を模倣(現実)が越えるという図式がある。
四話:笑い男の模倣たちが動く
五話:スタンドプレーから生じるチームワーク→スタンドアローンなコンプレックスの別の形
六話:笑い男事件を見ている我々も笑い男の模倣を強化する観客にすぎない
7:すでにマルセラは死んでいるのに、マルセラの英雄性だけが独り歩きしている。本物は既にいないが、そのコピーたちによって、本物の像が更新されていく。
8:社会的正義を貫く回
9:笑い男事件とはオリジナルのない模倣者がつくりだした現象だと解説される。
10:マッチョなバトーと少佐の救済の回。ジェンダーましまし。
11:施設侵入回。電脳化された記憶の不安定さが露呈する回。
12:現実の中で闘いたい素子像が見える回。現実と虚構のどちらを選ぶ?
13:凄惨な目にあった少女とその娘の話。ここにも本物と模倣品の対立がある。
14:死後も投資を継続し続ける人の話。自動化とは、機能が本体から分離することである。したがって、本体亡きあとも、機能は残る。
15:マシンに自我は宿るのか。
16:バトー回。この回の私の解釈は、一回戦目は実力差でやられて、二回戦目は意地でも勝ったというもの。
17:課長のかっこよさ(逃避をごまかしているともいえる)の回。
18:二つの人格が融合することで新たな傾向性が生まれてしまう。模倣する者と模倣される者。模倣される者は、もともと模倣されることを期待していたにも関わらず、模倣されてしまったあとではコントロールできない。偽の記憶によって暴走が止まる。
19:国際的な秩序が垣間見える回。人間味が見え、その人間味がその後のピンチを救う伏線になる回。
20:生身のトグサ。本物の効果、偽物のデータ。
21:人間味のある素子
22:危機一髪。義体を乗り移ることに伴うリスクが分かる回。
23:少佐さえ笑い男を演じてしまう回。
24:義体のリサイズをやめた記念の時計。素子が素子である外在的な証。
25:マシンに自我は宿った(たぶん)
26:情報の並列化による個の消滅の回避方法は、好奇心にある。→タチコマのことを研究した?消滅することによって社会を規定する媒介という表現からすると、もともとオリジナルはあってもよいことになる。

オリジナルは元からないのに、模倣されることであたかももともとあったかのようにオリジナルらしきものが実体化する現象と、オリジナルが消滅したあとも、オリジナルの模倣が独り歩きする現象との混在があると思う。笑い男事件は前者であると思う。なぜならあおい君は、正義感によって世の不正を告発するという純粋な意図しかもっておらず、本人には「笑い男である」意図も意識もないから。「笑い男になる」人はたくさんいた。
(追記: もしかしてタチコマに自我っぽいものが宿るのも、前者の話か? 自我というオリジナルはないのに、プログラムによってあたかも自我があるように振る舞うことで、自我そのものが実体化することというストーリー)
後者の現象は、映画の模倣やマルセラ回、全自動資本主義回、沖縄首相暗殺回で説明されている。
マシンに自我は宿るのか?については、そもそもわれわれ生身の人間には自我があると言えるのか?を解答してからでないと何とも言えない。個の誕生がイコール自我の誕生ではないように思われるが、個があると言えれば自我もあると言えるように見えることは多々ある。自我の問題は正直どうでもいいかな。(何を言っているのだ私は)

【残念だった点】
素子にいろいろな役割を詰め込みすぎている。最強の戦士であり、癒しの女性であり、エロティックで神秘的な女であり、母性をたたえ、最後は女神としてタチコマを導く存在。マシンと考察とアニメが好きな、ザ・男の視点によってつくられた女性像って感じ。対称的にバトーはハードボイルドを体現しており、それも強調されすぎな気がする。キャラが記号的。
未来に生きる人はジェンダーや性に関して、もっともっとラディカルだと思う。昭和の価値観の残り香がする。
青