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天国大魔境の傘籤のレビュー・感想・評価

天国大魔境(2023年製作のアニメ)
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荒廃した世界で人外と戦いながら行う少人数の旅、塀に囲まれた箱庭的空間での不穏な日常。昨今の流行り要素が多く見られる作品だが、決して軽薄に流行に乗ろうとした訳ではなく、それらを解体・再構築した上で、原作者である石黒正数のユーモアや性癖、抜け感を取り入れ、オリジナリティを追求したSF作品である。

藤子・F・不二雄好きで有名な作者さんなので、タイトルの「大魔鏡」からは『ドラえもん のび太の大魔鏡』を彷彿とさせる。子供たちの冒険や、近未来の道具等、結びつけようとすれば出来ないわけではないが、どちらかと言えばこの作品が目指しているのは「現代版AKIRA」なのではないかと思う。

ディストピア、サイバーパンク、ポストアポカリプス…『AKIRA』はこれらのジャンルを取り込んだ傑作漫画&アニメであり、『天国大魔鏡』にも類似点は多数見受けられる。ここで私が言いたいのは、だからこの作品がただの真似っこにすぎないということでは勿論無く、そうした先行作品を踏まえた上で、世界の"不思議"に立ち向かおうとする、現代的で前向きな姿勢がこの作品にはあったということだ。

ディズニープラス独占配信として構成された今回のアニメシリーズでは、原作の途中で終わってしまうので、消化不良感は否めないが、各話の演出や作画はとても気合いが入っており、1話ごと満足度の高い出来になっていた。

2つの世界がこの先どのように交錯していくのか、謎はまだ残されたままではあるが、ひとつの作品として見た時ここで終わらせたのは意味あることだと思う。それは「身近にいる存在の尊さ」「相手と一緒に居たいと思う気持ち」そんな普遍的で、だからこそ多くの人に伝わることを描いた地点で幕を閉じるから。

原作ではすでにこの先の展開が描かれているので、おそらく2期も製作されるだろう。期待して待ちたい。
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