次郎

ヴァイオレット・エヴァーガーデンの次郎のレビュー・感想・評価

4.8
傑作中の傑作。京アニによる圧倒的な作画力だけでなく、演出や脚本、音楽全てが信じられない程のクオリティ。主人公のお人形過ぎるビジュアルと盛り過ぎな設定はちょっと距離感があるし、義手については流石にオーパーツ過ぎるだろと思っていたが、見終わった今では些細な事に思えてきた。

映像の美しさもさることながら、それと同じくらい劇伴の素晴らしさについても触れられるべき。クラシック特有の弦楽器による壮大さもさることながら、木管を使った柔らかく温もりのある表現が何より素晴らしい。テーマ曲ではタイプライターの打音を組み込んでおり、楽曲だけで本作の世界観を完璧に作り上げている。こんな素晴らしい音楽を産み出したのはどんな人なのか調べてみたら、バークリー音大卒で日本のアニメ好き、好きなジャンルは北欧メタルというやべー人だった。来年(2022年)の大河ドラマの劇伴も担当だって!

そして吉田玲子による脚本は相変わらず外れなし。手紙を介した感情の交流というシンプルな主題をここまで美しく魅せられるのかと舌を巻いてしまう。特に圧巻なのは10話で、本話単体でも胸を打つ内容なのだが、9話までに至るエピソードの積み重ねがこの瞬間に収束し、溜めに溜めた感情をクライマックスで爆発させる。それは言葉にすれば「泣ける」という安易な表現になってしまうが、そこに至る感情の語り口が見事なのであり、大事なのはその涙に至る過程なのだ。

本作で描かれる愛というものの多くは戦争の爪痕によって失われた愛であり、不完全な愛だ。しかし、ヒトは愛というものについて、それが届かなかったからこそ普遍的に感じられてしまう難儀な生き物である。本作はそんな不確かな愛について、アニメという媒体で描きえた一つの完成形ではないだろうか。本編とは別のExtra Episodeで「愛はいつも 陽だまりの中にある」と雄弁に歌われている。それは見えなくても、届かなくても、例え愛する人を失ったとしても、それでも愛はそこにあるのだと。
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