えむえすぷらす

ヴァイオレット・エヴァーガーデンのえむえすぷらすのレビュー・感想・評価

5.0
第一次世界大戦後をモチーフにした独自の世界観設定による戦後期を一人でサヴァイブしていこうとする少女の成長譚。
原作小説は19世紀の文化、技術を基盤にしていた風に読めましたがアニメ化において世界観設定・考証で鈴木貴昭氏が参加、大陸国家群から気候、ライデンの街の通りの名前まで作り込まれている。第一次世界大戦は欧州において深い傷跡を残した。本シリーズでは帰って来なかった人達、街が戦場になって行方不明になった民間人などさまざまな死と残された人達の物語が代書タイピストであるドールという女性事務専門職に就いた元少年少女兵の目を通して語られて行く。欧州の戦間期初頭の文化技術を知っていると色々見えてくる作品でもあってその重厚さは魅力。
ヴァイオレットは戦争での兵士としての役割を少佐のために役立ちたい思いだけでやっていて少佐はその行為をさせている事に強い罪悪感を抱いている。そして戦後。少佐のいない世界で彼女は何も知らなかった所から「愛」について知って行く過程で自分の戦時下の行為の意味を知り、少佐への気持ちに気付く。

なおヴァイオレットの年齢はテレビアニメ版で14〜15歳前後、外伝で17歳ぐらい、劇場版で18歳前後となっていて何気に描き分けはされている。テレビ版でも兵士にされてしまった時の幼さの強さに対し戦後復員した時の姿にはきちんと成長が描かれていてキャラデザ・総作画監督の高瀬さんの繊細なデザインワークも良い。

ヴァイオレットを通じて見せる世界は何気に各エピソードの依頼主の視点でヴァイオレットの成長を見せる構造にもなっている。この種の依頼主のメッセージに関わる事からの物語はしばしば問題を作者が定めてそのための世界設定をして主人公に解決させる構造を持つ。本作の場合、原作に出てくる国家など世界観の解体再構築を鈴木貴昭氏とシリーズ構成の吉田玲子さんらがやっていて都合のいい物語のための設定は避けられている。このおかげでヴァイオレットのドールの仕事での出張に地に足がついた重みを与えられている。京都アニメーションの歴史大河、世界名作劇場的なドラマがかくして生まれた。

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