クドゥー

四月は君の嘘のクドゥーのレビュー・感想・評価

四月は君の嘘(2014年製作のアニメ)
5.0
『選ばれし者とはなにか、僕たちが見届ける意味とは』

ピアノを弾けなくなった少年が音楽の自由に満ち溢れた少女と出会う青春アニメ。これほどまでに残酷な運命を背負わせても良いのかというジレンマ、それでも懸命に生きる命の輝きはなによりも尊く美しい。全ての創作物の中で最も涙する、これが僕のオールタイムベスト。

第1話「モノトーン・カラフル」
→ほとんど全編が設定を説明するだけの会話、こんなの面白くなるはずないと思っていた。それでも一瞬で心を掴んでくる絵の美しさ、OPのカッティングとかEDのイントロ入り、なによりも主演二人の声が引っかかる。特別な作品になるような予感がした。

第2話「友人A」
→記録より記憶に残る演奏に少年は心の奥底にあるものを呼び覚ます。音楽に感じたことを言葉にするのは怖くても、誠実で有ろうとした言葉の端々には人格は宿る。ただの友人に感想を聞くのに手が震える訳もなく、走り去る顔はきっと人には見せられない。

第3話「春の中」
→自分のピアノの音が聞こえなくなった少年を走らせる一言。そのたった一言は彼女にとってどれほど重くて、勇気を絞り出したものだったのだろう。一人になる間はこの先の展開を示唆するようだが、ここまでの積み重ねで既に同ジャンルの多くに引導を渡している。

第4話「旅立ち」
→止まることが終わることと同義のコンクールの中で、一緒に立ち止まって「アゲイン!」と言ってくれる人。観客の嘲笑が喝采に変わるまでの濃密なひと時を、彼女はもっとずっと深いところで闘っている。共に旅立って交わる視線が、優しく見守ってきた視線を揺るがせる。

第5話「どんてんもよう」
→重なる後ろ姿も同じように言われたであろう言葉も、無意識のうちに意識から切り離して自分を守る。決して忘れられない高揚感もそうさせているのかもしれない。曇り空を開いた春の嵐に背中を押されて、昔できていたことにもう一度挑戦するために飛び立つ。

第6話「帰り道」
→傷つくのは見たくないのに密かに願っていた再起は、私のいない「わたしたち」によって始まった。誰よりも傍にいたことは往々にして運命に敗れるものだけれど、この先までと地続きになっている帰り道は揺るがない。音楽だけが全てじゃないと、私だけが知っている。

第7話「カゲささやく」
→息をするように努力し、集中すると生活を失いそうになる少年が再び臨むコンクール。他人も自分さえも影に過ぎないと言うけれど、らしさではなく「君は、君」と言ってくれる人がいる。それはまた、自分としか戦ってこなかった証明でもある。

第8話「響け」
→一人また一人と彼の音に魅入られてしまった者たちが集うコンクールの幕開け。リベンディングチャンピオンでありながらも挑戦者を自覚する者、私だけが彼の本質を理解していると演奏に込める者。二人の情熱を受けて彼は自分の音を取り戻せるだろうか。

第9話「共鳴」
→母親に元気になってもらいたくて続けてきたピアノ、その全てを否定され愛情が憎しみに変わる瞬間。最後に投げた言葉が、思い出が彼をまた暗いカゲへと引きずり込んでいく。しかし、本当の共鳴は、彼女が自分の痛みと戦っていた幕間の時間に鳴りを潜めていた。

第10話「君といた景色」
→まるで総集編のように春の嵐と出会ってからの日々を回想し、無責任な聴衆たちもそれを引き立てるスパイスとなって、たった一人のためのピアノに集約されていくテレビアニメ史上最高傑作。これで最終回で良かった。本当にこれが、最終回なら良かった。

第11話「命の灯」
→「こんなの、まるで告白みたいだ。」と思ってしまう貴方がそのたった一人だという表明。それを受け彼女がモノローグとして選んだ言葉に、視聴者とキャラクターとのジレンマを実感するが、僕が介在する意味はいつもそこにあった。本当の闘いは、ここから始まる。

第12話「トゥインクル リトルスター」
→選ばれたのは、母の匂いが色濃く残っていると楽譜が語った曲。進路の話から顔を逸さずにはいられず、いまというこの瞬間も困難な刻が近づいてくる。彼女を守るために、彼女との音楽を守るために、彼は今日の主役になると宣言する。

第13話「愛の悲しみ」
→たった一人のためのピアノを経験した彼は、素顔の母との再会を抱きしめるように弾いて果たす。最悪の人を喪うことで強くなれるとして、自ら進んで鬼の道を望むはずがないのに。我々視聴者がどんなに否定し拒絶しても、選ばれし者は臨まなければならない。

第14話「足跡」
→心配をかけまいと用意されたような返答は彼がかつて経験したもの。すべてを失った毎日をカラフルに彩ってくれた存在が、今度はモノトーンを象徴するジレンマ。彼女が示す演奏家としての道はそれでも、そっとずっと見守ってきた関係性に亀裂を入れる。

第15話「うそつき」
→会いに行っても行かなくても待っているのは現実で、自分を守る言い訳を日常生活に溶け込ませる。彼が本気で逃げ出したのなら、彼女は必死になって追いかける。それがたった一つだけついた嘘の代償だとして、たった一回の電話にどれほど勇気を振り絞ったのだろう。

第16話「似たもの同士」
→モノトーンをカラフルにするように突然現れた君との放課後、代役でも友人Aでもあるはずがない時間の中、「死んでも忘れない」という言葉を返す。重なる喪失のディテールが彼の心を抉り取るまでの穏やかなひと時。作劇として完璧な対比の予感が苦しい。

第17話「トワイライト」
→かける言葉が見つからないまま病室を訪れた彼に言うのは、トラウマを思い出させてしまったことへの謝罪。彼女の魂の気高さに恐怖すら感じてしまう。いまできるのは自分の人生でありったけの自分で真摯に弾き、他の誰かにそれを伝えていくことだけだ。

第18話「心重ねる」
→自分のピアノの音が聴こえることが想像している音の邪魔になる境地。二人にとっての一番大切なヒーローのための演奏が、ヒーローが再び立ち上がる力を与える。残酷な程に強く美しく前を向いた姿は君が見せてくれたもの、これから僕が返していくもの。

第19話「さよならヒーロー」
→再び同じ舞台に並び立つ夢のために心と体のリハビリを始めた君と僕。生きたいと願った結果よりも過程が、そこに至った感情が尊いものだと感じる。まるで大人の階段をのぼる条件であるように、演奏家は子ども時代のヒーローと決別していく。

第20話「手と手」
→ずっと側にいると約束した少女は幼なじみで、自分に恋する女の子。彼の心を埋め尽くしているのは何気ない風景を特別に変える存在で、彼女の想い人であるはずの親友に自分の想いを伝える。重ねた時は温かかった手は冷たく下され、彼を深い深い闇に叩きのめす。

第21話「雪」
→下を向いていることも弾けなくなったことも、彼女は全部分かってる。私がいるじゃんと笑顔を咲かせても、本当はひとりの恐怖とずっと闘っている。顔を上げるとみんながいるから、彼の人生を豊かにしてくれた人たちのために、彼は悲しみに色づくピアノを弾く。

最終話「春風」
→たった一人のためのピアノは、みんなのためのピアノになった。その先にあった二人で奏でる最後の演奏会、微笑みをたたえて光の粒子となって消えていく。孤独の中には彼女がいるから、これから先奏でる音には彼女がいるから、笑顔の君は一人じゃない。
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