Qちゃん

死との約束のQちゃんのレビュー・感想・評価

死との約束(2021年製作のドラマ)
3.0
第1弾のオリエント急行殺人事件、第2弾の黒井戸殺し(アクロイド殺し)に続く、三谷幸喜による野村萬斎をポアロに起用したアガサクリスティのポアロシリーズのドラマ化第3弾。

今回の原作「死との約束」ってタイトル聞いても全然ピンと来なかった。映画化された際のタイトルは「死海殺人事件」。どっちにしろ観てないし原作も未読。なんかずいぶん知名度微妙なところ突いた気がするんだけど、なぜ?と思ってたら、どうもアガサクリスティの隠れた傑作として三谷幸喜自身が1番好きな作品ならしい。

まず、ずいぶん地味な作品という印象を受けた。登場人物たちの証言をベースに推理することもあって、2時間ドラマにするには地味すぎて、なんか火サス見てる気分になった。

かなり原作に忠実に作りつつ、今回三谷さんが追加したという野村さんのポアロとある人の過去の話、これ原作ポアロの別作品のロサコフ伯爵夫人との関係をマルっと持ってきた感じだね。悪いけど、そのせいで火サス度が増した。犯人なんとなく分かってしまう上に、原作でも比較的美味しいポアロ周りの設定を使い捨ててることにちょっと驚いた。

前々作のオリエント急行殺人事件の時もだけど、殺された人間がかなり酷い人間とはいえ、今回は特に身内の死なのに、なんかほっこり幸せエンドみたいなノリになってる、人の死や殺人という事実に対する悲壮感の無さが絶望的に嘘くさく、感覚的に歩み寄れない。

なんかこのシリーズ、ものすごくお好きな人もいるようだが、私は正直第1弾でゲンナリしてたので、三谷幸喜作品でなかったら観ようとしなかったところ。なんとなくヒッチコックとウッディアレンと三谷幸喜はとりあえず観れるもの観てみようと思ってしまい、本作も観てしまった。。

私、野村萬斎さんご出演の狂言も時代劇も「にほんごであそぼ」作品も大好きなんだけど、本作の役作りはわざとらしすぎて正直苦しい。

ご本人らしさ、というには、その他の作品では発揮されている、作品やその時代・設定に沿うスマートさに欠けてみえ、三谷作品特有のわざとらしさ、と置くには、クリスティ作品のシリアスさと野村萬斎さんの役作りの癖というか色というかが抜けてないため、腰が座っていない。要は、作風以上に、その他の登場人物たちよりも、あまりいい意味でなくかなり浮いた存在に見えてしまう。

ついでにわざとか無意識か、ちょっとスーシェのポアロの吹き替え版ぽい喋り方に流されてる気がしていて、そこにモノマネっぽさも否めない。そのせいもあって、なんとなくポアロが常に茶化して見えるから、原作やドラマ版の、周りからしたらコミカルだったり可愛らしさを感じることもあるが本人はいたって大真面目なポアロらしさを感じられず、どちらかというと事件をあくまでも他人事として楽しんでいるんじゃないかとすら思える介入をしている、同じく三谷幸喜の「古畑任三郎」シリーズっぽさを感じる。

前々回のオリエント急行殺人事件は、結構重い倫理的テーマを含んでいて、ポアロも重大な決断を下す場面があるのにその調子だったので、すごく軽いエンタメっぽさで作品の本質を塗りつぶされた感じが嫌だった。

本作では、前々作ほどの違和感はなかったものの、やっぱり実在する人物らしさがなく、このドラマ専用の血の通わないクセの強い一役という感じ。
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