岡田拓朗

きみが心に棲みついたの岡田拓朗のレビュー・感想・評価

きみが心に棲みついた(2018年製作のドラマ)
4.0
吉岡里帆が主演ということで、内容はどうあれ観ようと思ってましたが、内容もおもしろくとてもハマった。

1〜4話
過去に親に虐げられ、自分を肯定してもらえたり、受け入れてもらえた経験がなく育った小川今日子(吉岡里帆)。
自分に自信がないことで自分の意見をしっかり発信できずに、きょど子といじめられていた。

歳を重ねても自己肯定感を養うことができず、それをいいことに星名漣(向井理)がつけ込み、今日子を支配していく。

今日子は星名さんに利用されている、自分のことを思ってくれていないことは察しつつ、着信拒否などをし、離れようとしても、まさかの仕事で関わらざるを得なくなる。
無理やりにでも関わらざるを得なくなることで、過去の優しさなどを思い出してしまったり、飴と鞭をうまく使い分けられ、結局関係をなかなか切り離れることができない。

そこに今日子を受け入れつつ今日子らしさを引き出そうとしてくれている吉崎(桐谷健太)。
基本的に人間不信に陥りつつある今日子(特に異性には)だが、彼の前だと素直になれるし、言いたいことも言える。
自分のことを受け止めてくれると悟っているからか、気持ちが抑えきれないからか、終始話が転々としながらも一番素直な感情や思考がぶつけられていて、話すことでそれが整理されている、そんな印象を受ける。

基本的には今日子をベースに描かれているため、自己肯定感が低い女性の心、裏側や考えてること、されたことに対しての行動や言動ってこんな感じなんだなーと勉強になることが多い。
(やはり過去や背景には何かしらの闇があることも多い)

自分のことを必要としていない、もしくは全く見ようとしない人のために頑張る必要なんかないから、そんな人からの言葉に一喜一憂したり、過去に縛られたり、それで思い悩んだりする時間は無駄。
ってくらいに開き直れたら生きるのってだいぶ楽になるんだろうなーと思ったりもします。

また、そういう人とできるだけ関わらないようにできたらいいけど、関係を重視され、周りの目を気にしてしまう性格で、その上狭い組織の中でうまく動かざるを得ないドラマ中の日本的な人、職場ではこれが難しそう。

少し大袈裟に描かれすぎてる感はあるけど、ドラマならこれくらいでもいいかも。

現状、星名さんが他の女性と何かありそうなときの方が今日子は寂しがっていることから、好きの気持ちは星名さん寄りな感じがする。
好きというより、もはやなぜか惹かれてしまっている感覚に近いか。

普通に見てたら吉崎に惹かれるやろと思ったりもするんですが、優しい人で止まるってこういうことなのか、星名さんの何とも言えない魅力なのか、とかもう色々ぐるぐると考えてしまいます。笑

さらに星名さんの過去。
こんな風になってしまうのは何かしらの過去が必ずあるはず。
そんな過去にも注目。

吉岡里帆がカルテットとは正反対の役柄やけど、かなりハマってて嬉しいし、向井理の二重人格演技がすごい。
ムロツヨシと鈴木紗理奈のキャラと瀬戸朝香の柔らかい雰囲気が闇深いドラマの中に休憩時間を入れてくれているような感じで笑いもあっておもしろい!

第5話
正直今日子の過去が知られたところで今日子の今をちゃんと見ている人たちが今日子のことを嫌いになったりするわけがないことに気づいてなかったのが、見ていてきつかった。

やろうとしていることがわかりやすすぎて、墓穴掘ってるのに気づいてなかったのか、星名もその周りも含めて、やはり自分軸で考えていたことによって、あんな形で陥れようとするような感じになったのかな…。

正直過去に誰かの前で脱いだことなんて、「あ、そうなん、それで?」で終わること。
現実はそんな過去のことを気にする人で溢れてんのかな…? 自分が気にしないだけで。

星名さんと今日子がパーソナリティ障害であるという前提で見ると全ての行動がわりと腑に落ちてくる。
しかもそれは過去の思い出したくない出来事から来ているのである。

6〜7話
過去に縛られている人ほど他の人も過去に影響されると思っている節がある。
自分がこう思うからどれだけ優しくていい人でもこう思うだろうと自分を軸に考えてしまう。
だから星名側の行動、全てが裏目に出ていた。

星名のように小さい頃から受け入れられず、罵倒され続けた人にとっては、男の前で裸を見せる行為は有無を言わせず嫌われる行為であるという前提で話が進んでいってるんだろうな…理由がどうであったとしても。
基準、前提がそもそも合っていない。難しい。

対して今日子も同じように有無を言わせず自分がした行為は、知られた時点で嫌われると考えている。
星名と今日子の基準はわりと近い。
そして星名は嫉妬されるように仕向けることで愛され、支配こそが愛することだと思っていて、今日子は一途に言うことを聞くことで愛されると思っている。

ここがお互いなんやかんや変な感じにマッチしてたからずるずると関係が続いていってしまったように見えた。
そこに新しい愛の形を提供したのが吉崎。
優しい愛に今日子が初めて触れたので戸惑ってしまいちゃんと受け止めきれてなかったけど、徐々に信じれるようになってきてる。

逆に飯田からの愛を素直に受け止められない星名は、今日子のことがやはり好きでどうしても執着するのをやめられない。
きょど子のくせにと言いながら羨望してて、どうしても離れたくないと考えているのは星名の方であった。

そして、唯一繋ぎ止めていたねじねじがほどかれていて、初めて「きょど子のくせに」ではなく、「まじかよ」になった。
これは明らかに今までとは違う反応で、驚きと焦りが交じったような感じだった。

8話〜9話
星名と今日子の関係は誰にも理解し得ないんだよね。
これまでのストーリーと当事者2人の過去とそれを踏まえての性格…表面だけ、何かを知っただけでは到底乗り越えられない大きな壁みたいなものが2人の関係にはある。それを色んな立場からの反応と交えてちゃんと描かれてるのがマジすごいと思った。

吉崎が今日子に対して誕生日に別れを切り出したシーン。
恋愛と依存はわりと紙一重に見えるけど、やっぱり大きく違うということが、改めてわかった。

鑑賞者側から見てると今日子が今までのことや現実から目を背けずに、変わろうと前に進んで頑張ったんだからわかってあげて欲しい感はあるし、そんな声が多かったと思うけど、吉崎さんの立場に立ちながらということを考えてると、確かに自分のことを好きでいてくれてるとは思わないだろうなーとも感じた。

好きな人にはその人のために何かしてあげたいものやけど、今日子の行動からはそれがあまりにも見えないように感じたのは確かにある。

どんな状態にせよ、星名に対しての行動や言動より自分のことを思ってくれてると感じる行動や言動の方が少ないし弱いと感じてしまっているのが吉崎で、今日子は余裕がなかった上に、星名との関係を切れなかったとなると、やはりいくら吉崎みたいな人でも受け止めきれる自信がないんだろうなーと思う。

吉崎は過去を受け入れた上で今日子と接しているが、未来を考えたときに自分だけが愛し、自分が愛されない、依存されるだけで自分が消耗してしまうのではないかという見えない未来に対しての不安は底知れず、どれだけ好きだとしてもそれを耐えられるかはわからないからこその別れようだったんじゃないかなと。

初めは星名のことを全く理解できなくて、かなり苛々していましたが、彼の過去を知ることで、どうにか救いが彼にも伸びて欲しいとそう思うようになってきた。
過去にそこまで大きな闇がない自分には、やはり共感し切れないのが事実ですが、徐々に理解はできてきた。

そして最終回。
弱さを見せないと生きていけない今日子と弱さを見せながら生きていけない星名。
生い立ちが似ている中で明暗がくっきりとわかれたのはここだった。
あえて星名が結局どうなったかよくわからないラストにしたのは、星名は今日子と対比される人物として描かれていたからではないか。

深い闇が過去にあったとして、それは理解されなくとも、今の自分を見てもらおうとすることで、受け入れてくれる人はいるということ。
結局は今が大切であるということ。誰かにすがるのではなくて、自分で考えて行動を取捨選択すること。
それで人生が変わる。

今回受け入れる人として描かれていたのが吉崎で、今日子のみならず、鈴木先生も似たような形で受け入れてもらえていた。過去じゃなくて今を、その時々を。
それが最後のスピーチで十二分に伝わってきた。
だからこそあのシーンは描かれる意味があったように思えた。

星名も自分の弱さを唯一さらけ出したことのある今日子には最後まで見捨てられなかった。
そこは救いだったなー。
星名はまずは世の中を諦めの目線で生きることをやめて、本気で人と向き合って今を生きてみることで、充実の一歩を踏み出せるのではと感じた。
岡田拓朗

岡田拓朗