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大豆田とわ子と三人の元夫のTaiRaのレビュー・感想・評価

大豆田とわ子と三人の元夫(2021年製作のドラマ)
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まず、坂元裕二が坂元裕二できる環境を作り上げた佐野亜裕美プロデューサーがスゴい。民放ドラマの意地。

思い返せば『大豆田とわ子と三人の元夫』は、とわ子の母の死から始まった物語で、その後も一貫して過去と未来、喪失と選択が問われ続けた。そして自由と孤独と幸福についても。要するに人生の全てを10のエピソードで語ったと言える。最大限の祝福を着地に用意して。とわ子と三人の元夫たち、綿来かごめの過去を振り返りつつ人生の選択を見つめ、いくつかの決心を促す第1章まではライトなトレンディドラマの感覚で推進。第2章から本格的に問われるのは、自由意志と決定論だ。小鳥遊大史が語る『時間は存在しない』論はとわ子に一時の救いを与えるが、重要なのは彼女が彼を選ばない選択にある。今作は決定論に基づきながら自由意志を描く。そもそもドラマとは脚本があり筋道(運命)が定められている。劇中の登場人物に自由意志は本来存在しない。毎話冒頭で今週あった出来事がダイジェストが紹介され(=未来の確定)、とわ子は視聴者に向かってタイトルコールをする。とわ子は自身がドラマの登場人物である事を認知している。伊藤沙莉の声を借りた坂元裕二は全知全能の存在。その上で自由意志を問うチグハグさが何よりの魅力だ。決定論と自由意志を共存させる為に、今作では並行世界を肯定している。スピンオフ『チェインストーリー 大豆田とわ子を知らない三人の男たち』は、その実例として本編を補完する。本編9話で語られるとわ子と八作の「あり得たかもしれない結婚風景」も妄想や想像の産物でなく、「もうひとつの人生」(とわ子の書き初め)として存在すると言って差し支えない。もちろん主題歌が5通り存在(Presence)するのも大きな示唆。時間は存在せず未来は全て確定しているが、可能性は無限大であり、世界は幾通りも存在し、人生の選択は常に我々の自由意志の中にある。そして「自由と孤独はふたつでセット」(©竹内まりや)でもある。運命の人よりも自らの意志によって愛を選んだとわ子が「ひとり」を享受するのは必然だ。その選択は、先んじて三人の元夫たちも下した決断でもある。坂元裕二はそんな自由と選択を全て肯定する。選ばれなかった人生をも「真」としながら。「あの時の誤算も幸せの予算に」「どんな失敗にも花束を」「曖昧で 純粋で 私が自分で決めた 幸せの姿」大豆田とわ子と三人の元夫、ありがとう!
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