Oto

サロガシーのOtoのレビュー・感想・評価

サロガシー(2021年製作のドラマ)
3.9
坂元裕二、野木亜紀子を輩出したヤンシナ2020の大賞作。いいドラマを観た。

正直、前回大賞のパニックコマーシャルは脚本が良かっただけに映像化はこんな風になったか〜という拍子抜け感があったのだけど、今作は脚本・監督・技術・P・俳優の全パートがいい仕事をしていた。

まず脚本に関しては、
①サロガシー(代理出産)という日本人にとって新鮮で重要なテーマの提起
②人の長所と短所が裏表であることを意識して多面的に描かれる人物造形
③ユーモアとシリアスのセリフのバランス感覚&展開づくり
が非常に見事だと感じた。

①の設定でまず魅力があるのはもちろんだけど、やはり展開が上手。サロガシーをするとなったときの、両親の心情、代理妊婦の孤独、男夫婦の課題、などあらゆる方面で想像力が発揮されていて、西川監督が言うように「知らない世界を知る」という映画の機能を最大限に生かしている。テーマを言い過ぎな部分も見受けられたけど、実体験って強いなぁ。
母親の成長が英語教室で生まれるとか上手い。この作品自身が「優しさは知識」というテーマを体現している。必死で搾乳した母乳を捨てる母の描写が一番心に残った。3人で暮らすことよりも一人で生きていくというマイノリティの肯定という最後の決断も良い。
https://www.fujitv.co.jp/fujitv/news/20210213.html

②に関しては同僚のキャラクターが素晴らしかったな...。
ノーランかだれかが、「馴染みのない/難しい物語を描くときには、観客に近い立場で説明されて学んでいく役を入れる方がいい」と言っていた。はじめは意図せずデリカシーのないことを言ってしまうけど、その素直さがのちに主人公を救うことになるというのがすごく良い。「おめでとう」の重み。

③に関しては脚本からの変更(=演出の手柄)もあるけれど、コミカルでテンポのいい展開のなかでも、笑わせに来てないのがいい。あくまでリアリティをベースにして、両親の大胆な行動だとか病院での男たちの戸惑いが描かれている。

監督に関しては、やっぱり演出の力って偉大だな〜と感じた。脚本はあくまで設計図であって、それが全て正解ではないということを前回の大賞作と比較して強く感じた。
でもかと言って、そこで監督のエゴで進めていくのではなく、脚本家の意図を汲み取って、観客にベストな形で届けるということが仕事なんだと思った。本にはたしかに縁側と書いてあったけど、あの家の縁側で話すのだけは違和感があった。

そもそも放送尺に収まらなかったということがあったようだけど、上にも書いたようにテンポのいい展開も全然浮いていないし見事。撮影との相性も良かったのか、倒れるときにエレベーターの中の手をつかむカットを先に入れるのとか、恋愛的なミスリードがあってよかった。ラストのアセクシャルの余地を残した結末とかも上手。
シナリオを読んでみても、他と比べて効いていないシーンがしっかり削られていたり、斎藤工を使って合体されていたりして、非常にうまいプロデュースがされているなぁと感じた。
https://www.fujitv-view.jp/article/post-273303/

そして何よりキャスティングが素晴らしい。
初主演という堀田真由、ドラマで見かけたときはあまり印象に残らなかったけど、今回はすごくハマっていたし、今後「幸薄」とか「男勝りコミカル」系で重宝されそうな気がした(ポスト井上真央?)。「お母さんじゃなーーーい!!」
あとは、田村健太郎、ファンになった。チャーミング、だけどやりすぎじゃない、というちょうどいい距離感を保って、物語を邪魔せずに実存しているという好きな芝居だった。「やだーもー。この人やだー。」を気遣いっぽくお姉っぽくならずに言える。
ゲイ夫婦もそうにしか見えないし、今回は気合入れて企画を進めたんだな〜というのが伝わった。

奥行きのある映像、タクシーに乗る前に見送るときの神々しい照明、赤ちゃんの美術...基本的なことを抑えて、そして時にベッドからの視点のような遊びも入れて撮るという職人の仕事だったと思う。

自分もいわば、出来の良い息子であったと思うのだけど、キャリアに関しては好きなことをやらせてもらえたと思う一方で、人間関係には親の求めるものに従ってしまった側面があるような気がしていて、その反動が25をすぎてやってきたような感覚がある。親のために自分のやりたいことを諦めるなんて間違っているとは思うけれど、かといって自分の好きとかやりたいが絶対的に正しいかと言われるとそうとも言い切れないのが難しくて、ある程度の制限があったからこそ鍛えられた自分というのはたしかにあるな〜と振り返って思ったりした。自由には責任が伴うし、「孤独とは言い換えりゃ自由」ってことかもしれない。

ヤンシナの映像化は今後もこの路線で続けてほしいな〜という良作だった。長編にするのであれば、子供が抱えることになる苦労とかまで踏み込むことになるのかもしれない。

シナリオ:https://www.fujitv.co.jp/young/scenario/32th_01.pdf
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