かじドゥンドゥン

ゼム シーズン1のかじドゥンドゥンのレビュー・感想・評価

ゼム シーズン1(2021年製作のドラマ)
4.5
1950年代のアメリカ。黒人一家が南部からカリフォルニア州イースト・コンプトンの住宅街に越してくる。黒人でありながらエンジニアの職を得た夫は、公平で自由な新生活を夢見て意気揚々とこの新居にやってきたが、周囲の白人住民たちの視線は冷たく、職場でも学校でも、一家に対する陰湿で残虐な差別が始まる。

そもそも一家は、夫と娘の留守中、妻と幼い息子がKKK(白人至上主義者)数人に襲撃され、妻は犯され、息子は殺されるという悲劇に見舞われ、それを機に引っ越し(脱出)を決意した。ところが、黒人にとっては北部も同様の地獄であることが明らかになると、一家は逃げ場を失い、精神的に追い詰められてゆく。

南北戦争以前からの、黒人の忌まわしき集団記憶のようなものが蓄積されていて、それが悪魔や霊の姿で表出して超常現象が起きるという、ホラー仕立てになっている。ただしその悪魔や霊の存在は、一家4人(夫婦と娘2人)それぞれの内面の葛藤を象徴してもいる。この辺の描写が独特で、戸惑うのはたしか。最後は、とことん追い詰められた黒人一家が、周囲の白人たちに暴力でもって反撃に出るが、結局は自分の中に巣くう黒人としてのコンプレックスや自己嫌悪などに打ち克つことで、はじめて一家の(心の)平穏が訪れる。ハッピーエンドというには、アイロニーに満ちている。