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ゼム シーズン1のrayconteのレビュー・感想・評価

ゼム シーズン1(2021年製作のドラマ)
5.0
素晴らしい傑作。

50年代、当時新興住宅地であったコンプトンへ黒人四人家族がお引越ししてきたことから物語がはじまる。

住人は白人の中流家庭ばかりで、有色人種を排斥したがる。
人種差別というのは中流層以下で発露しやすい。
場所を選ばず家を買えるほどの経済力がない彼らにとって、有色人種のいない地域に住むというのはアイデンティティだ。
そしてアメリカは自衛の国だ。
苦心してやっと手に入れた城の価値を守るための攻撃なら、それは彼らにとって人種差別ではないのだ。

もちろん、黒人を追い出す法的な根拠はない。だから彼らは陰湿な手でいびり出そうとする。まるで火あぶりみたいに。
観ていて胸くそ悪くなるし、まあ救いもない。
ただこの作品は、単なる社会派ではなくホラームービーとしてものすごく出来がいい。
ソリッドな演出で黒人一家の精神的不安を描き出す手触りは、「ゲットアウト」に似ている。現象はゲットアウトよりかなりひどいけど…。
差別描写なので面白いというのは憚られるのだが、それはそうとしてエッジの効いた編集はひたすらにカッコいいし、他人事になりかねない社会ドラマを個人の視点と精神状態から描き出すことで、観るものに当事者意識を与えることに成功している。
ということで、堅く考えずまずはホラームービーとして楽しんでみてはどうだろうか。傑作なので。

余談だが、統計では現代でも人種差別(日本なら国籍差別か)を行なっている人々(ネットで差別発言したり、外国人排斥運動に参加したり)は、やはり中流あたりの経済層が圧倒的に多いらしい。
まあ要するに、自分たちは世界どこでもいけるお金がないから、気に入らないやつを追い出そうという発想だ。まんまこのドラマじゃん。てことは50年代から人間の道徳観はあんま進化してない。
これは差別の根本に「自分への不満」があるからだ。
大人になっても自尊心が満たされてなくて、国籍や人種、生まれ持ったものを振り回して自分が上等な人間だと思う以外に精神の安定を保つ方法がない哀れな人々。
客観的に見ればかなりダセえけど、本人らからしたらそれが蜘蛛の糸なのだから、決してやめない。
経済格差は無理でも、人種国籍性差別くらいさっさとフラットになってほしいですね。
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