いかえもん

SHOGUN 将軍のいかえもんのレビュー・感想・評価

SHOGUN 将軍(2024年製作のドラマ)
4.3
海外では超絶話題になっているこの作品。日本では海外程は盛り上がっているようには思えないけど、どうなんだろう?

さて、お話なんですが、キャラクターの名前はそれぞれ架空の名前に置き換わっているけど、徳川家康と石田三成をモデルとした関ケ原の前日譚的な感じで、戦闘シーンはほとんどなく、頭脳戦が描かれます。そこにイギリスから流れ着いた三浦按針が絡んでくるというような感じのお話です。

ハリウッド作品で日本の戦国時代がこれほど丁寧に描かれた作品はないと思う。日本の描写についてクオリティの高さは申し分ない。日本人俳優による正しい日本語、正しい日本の文化が描かれ、全10話それぞれに見ごたえのある演出があり、キャラクター一人ひとりも魅力的に描かれていた。毎週なにかしら見どころもあった。

だけど、正直なところを言うと、実は私にはわりと頭が混乱するドラマでもあった。キャラクターの設定は日本史に基づいているけど、それぞれ名前が違うところがまず難しかった。個人的にドラマ終わるまで疑問があったのが虎長だったんだよね。家康をイメージした虎長を演じたのが私的に最も魅力ある俳優、真田広之さんだったことで、虎長に対してすっごくいい人イメージを持ってしまって見てたのが悪かったんだと思うのだけど、最後まで何考えてるかわからんキャラで、えー…なんか虎長が一番よくわからんかったなぁって考えてから、あ、そうか!家康やもんな、狸親父だもんなと納得。しかし狸親父にしてはイケメンすぎるところが、大河ドラマをかじっている人間には混乱を招くものだった気がする。(まあそれは私の個人的なものであって、ドラマが悪いわけでは決してない。)

それと、この時代の含みを持たせたものの言い方が、含み過ぎてよくわからんというところもあったし、歌を詠むシーンもそこにどういう意味があるのか解説見ないとわからない部分もあった。海外の人はそういう日本を、按針の立場に立ってファンタスティックでミステリアスで、でもちょっと怖いという気持ちで見ていたのかなぁと思う。私も結局このドラマの誰にも感情移入できず見ている部分が多くて、この時代の日本に紛れ込んだ按針に近い立場でこのドラマを見ていたのだろうと思う。と言っても、日本の戦国時代の知識も多少はあり、大河ドラマとかもちょっと観ているから武士のこともちょっとはわかるというのが、どの立場で見ればいいのかまた少しばかり混乱を招く要素ではあった。
あと、切腹シーンが多いなぁと思って、その辺はやはり原作がイギリス人作家によって書かれたものであるからなのかなぁと思ったりもした。原作は海外ではベストセラーらしいから、そちらへの配慮も必要なわけで、そこまで日本に合わせろって言えないとは思う。そんな中で、衣装から所作から大道具小道具などなどかなり細かいところにまでこだわって描かれた点はすごいなと思ったし、トンデモニッポンでなかったところは素晴らしかった。特にこのドラマの中でおそらく誰もが認める最も重要な切腹シーンについては、西岡徳馬さんの意見で改変されたとどこかの記事で読んだけど、そこの改変はほんとよかったと思う。ちょっとネタバレになるけど家臣がみんな切腹したりしたら興ざめだったなと思う。とはいうものの、その多いと感じた切腹シーンも、それぞれに色々と意味を持たせた切腹であり、ただただ腹を斬ればよいってもんではない描き方には好感が持てた。

キャラクターはどの人物もしっかりと作りこまれていて、私は特に藪重と文太郎、お藤様が好きだった。もちろん広松、鞠子、落葉の方、菊、長門などなど終わってからも一人一人しっかり思い出せるほど作りこまれていた。虎長はそれに比べると控えめな印象で、その辺りは、いかにも真田さんらしく若い人や盟友を立てるようにしたのかなと思う。

アメリカのドラマだし原作も日本人が書いたわけでもないので、完全なる日本の時代劇というものではないけれども、日本の戦国を舞台にした海外ドラマで、ここまで日本人主導で作られたことの意味はものすごく大きいと思う。
ただ、私の周りの若者は全く観てなくて、ちょっと残念というか、そんなもんかぁと思ったりもした。
早くも二匹目のドジョウを狙ったシーズン2の話が出ているようだけど、これ以上に何を描く?また切腹か?ってなるから個人的にはやめておいた方がいいと思う。
それと、これからの日本制作の時代劇が変わっていきそうな予感がする。このドラマを観てしまったら、中途半端な時代劇はもう恥ずかしくて作れない。真田さんはこのドラマの制作に関わったことで、図らずもなのか、図ったのか、おそらく図ったのだろうけど、多方面に影響を与えたと改めて思う。
あんなイケメンなのに実は本当に狸親父なのかもしれない。
全くあっぱれでござりました、真田さん!