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お耳に合いましたら。の8637のレビュー・感想・評価

お耳に合いましたら。(2021年製作のドラマ)
4.7
冗談抜きでオールタイムベストドラマ。昨夏オンタイムで楽しんでいたものの、受験勉強も忙しくなって途中で止まっていた。恐らく、終えたくないという気持ちもあった。だって、こんなにも心を揺り動かされるドラマ、初めてだったから。

飯テロを令和的に描くとこうなる!って感じ。だけどチェーン店のメシ"チェンメシ"なので、食べたくなったらいっそそのまま食べに行けるのがありがたいところだ。「美味い」を直接的にではなくフィーリングで、視聴者に共感させるように伝えられるのがチェンメシであることの強みだった。
食事中に観るというナンセンスなことをしてたら、食後にはチェンメシの口になってしまっていた。近くにお店は全てあるし行きたいけど、居酒屋とかコロナ禍で行きづらいな...と思わせ妬ませる意味でも飯テロドラマだった。
様々なカルチャーを反映させたコミカルも交えられていた。そんな中で食事は、生活習慣と文化の間にあるものだと思う。"食べなきゃ生きられない"の中で、どれだけオプションで美味を追い求められるか。食と人生観の繋がりを、作る側・食べる側の両方から描けていた。

ただ、ご飯を食べるだけでなく、まつまる漬物で起こるドラマが最高なんだよ...ここまでドキドキと焦燥に駆られる大人たちの話も初めてだった。
嘘偽りなくすべてが神回。キャスティング的にネットが盛り上がる回もあれば、流れ行くアンチを回転寿司の流れに喩えるなどのセンスが光る回もあった。"味変"と題してスピンオフを勝手に始められても愛せるし、客観的な視点がある方がやはり面白かった。自分が嫌悪しがちな"親登場回"の最適解も観られた気がする。

感情の揺らぎはまさしく伊藤万理華の表現力の豊かさによるものだと思う。「サマーフィルムにのって」に続き、もはやどんなオタクにもなれることが分かってしまった。すげぇ。理想郷すぎる。井桁弘恵・鈴木仁と合わせて皆の陰キャ的な"好きなものを好きと伝える"精神が最高。その脇で一話だけ活躍する中島歩、駒井蓮、豊嶋花、嶋田久作、そして臼田あさ美まで最強だったとは。

言葉が続かない中で隔ててしまった間があったとしても、そこに情熱を感じれば汲み取れる。正直、ラジオの文化については疎かった。しかしこれを通してポッドキャストの楽しさも知れた。そしてこのポッドキャストは、実際にも一時期Spotifyで氷川きよしを超えていた。
何にしても、人が純粋に"好き"を語っている瞬間って最高だ。その対象が人でなくても、そういう思い自体が美しい。その思いを通して隣人とも通じ合える、彼女のパワーが凄まじかった。

昨年初監督作が公開したばかりなのに、松本壮史監督の作品にはハズレがない。まだ「青葉家のテーブル」がドラマも映画も残っているので、また気分が落ちた時に観ようと思う。
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