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漂着者のmasatのネタバレレビュー・内容・結末

漂着者(2021年製作のドラマ)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

驚くべき“実験”をしている作品だ。
流石、斎藤工が選んだだけのことはある。
近年、彼の活躍振りと攻めの姿勢は目覚ましく・・・映画では監督&プロデュースの『COMPLY+-ANCE』(20)『MANRIKI』(20)『ゾッキ』(21)そして堂々主演の『麻雀放浪記2020』(19)、ドラマでは「ペンション・恋は桃色」(20)をモノにしただけの事はある。その延長線上にあり、実験精神と挑戦がハッキリと打ち出されている。
これは秋元某ではなく、斎藤の斎藤たる所以の作品だ。

ラスト3話で、これだけ散らかした伏線をどうやって回収するのだろうかと気が気でなくなる。ラスト2話で、口裂け女まで登場し、どう畳むのか?に手に汗握る。
そして最終回、あらゆる予想と妄想を覆す。
撃たれる斎藤工を抱き抱えるマイヤンに向かって「初めて生きていたいと感じた」と涙を流す。街には彼の、とても穏やかで優しいラストメッセージが溢れていた。捻りもせずに堂々と正面切ったエンディング、その太々しさにむしろ感動を覚える。

が!?そんな余韻も束の間、
その後の5分が驚く。
視聴者はこのドラマを、まるで“監視カメラ”“定点カメラ”のようなもので見ていたことに気づく。ドラマの中の真実が、実は巧妙に演じられていたことに気付く。マイヤンが演じる記者と同様の、ドラマの中の登場人物同様の、(視聴者をも騙し、)視聴者は“リアルな”衝撃を覚えるのだ。
どっきりカメラ!?
しかし、もう遅い。
騙された!なんて言う感情は湧き上がらない。
マイヤンは既に“心を奪われた”から、もう感情を戻す事はできない。愛してしまったからだ。同様に、生瀬昭和刑事も、同様に親愛の情を感じて、清々しい眼差しで彼を見上げていた。

かくして、その男ヘミングウェイは、巧妙に日本を手に入れたのだ。
日本はマイヤン同様にヘミングウェイを愛してしまったのである。

一方、“置き忘れ”の辻褄は、“オカルト”の名の下に解決できる。
洗脳の先の“催眠”の力。ヘミングウェイは、何らかの“力”を持っていたのは確かなのだ。その力は何だったのか?
1995年3月20日を思い出す。平成最大の事件、無差別テロの殺戮。
その失敗を学習した男は、まず、日本の中心・東京から遠く離れた新潟の地を選び、その海辺に全裸で漂着する漂着者のドラマから始めたのだ。
男の眼は、先天性縁内障のように“弱視”の表情を浮かべている。この眼を、意図的に演じる斎藤工は本当に素晴らしく恐ろしい。
そんな男は、イデオロギーや目的を持たず、
“愛されること”
が全てを支配できると言う“真実”を見つけ、その一点に向かい、あらゆるセットアップをしたのだった。あの集団の失敗をよく学習した成果。
ラストカット、高らかに鐘を鳴らすその表情は、眩しい。
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