サンタフェ

ハウス・オブ・ザ・ドラゴン シーズン1のサンタフェのレビュー・感想・評価

3.2
世界が待ちに待ったゲーム・オブ・スローンズの前日譚。結論から言うと期待外れとなりました……とても哀しい……。

まずは良かったところから

・ドラゴン最高〜!!!1話からどんどん出てきて格好良すぎる…。ドラカリス葬よかったですね

・シーズン1から観やすい!私はGoTをシーズン1の1-3話で脱落し続け再挑戦を重ね続けた後にようやく軌道に乗り最後まで完走したのですが、本作はいきなり面白い!わかりやすい!アクションも豪華ですしドラゴンもいるし人間関係もはるかにシンプルです。私はGoTから海外ドラマに入るのは苦行に等しいと思っていますが、本作は海外ドラマに慣れていない人でもかなり観やすいのではないでしょうか。

・美術、役者、構図が格好良い〜。HBOは本当にクラシックな格調高い撮り方が見事ですね。GoT時代よりもドラマ全体の水準が上がったこともあり、本当に全カットが美しい。眼に楽しい作品でした。役者さんではみんな大好きマットスミスと若レイニラのミリー・オールコックがお気に入りでした。配役交代後の役者さんたちも全員素晴らしかったと思います。


以下、不満をボロクソ書きますので好きな方はすみません。




・登場人物が全員バカ。というか甘ちゃんすぎる。お遊戯かよ…。サーセイなら殺してたな…デナーリスならドラカリスだな…の嵐。GoTの醍醐味といえば圧倒的な駆け引きと暴力なのに、ゆるゆるティーンドラマの口喧嘩かよというダルさでした。

・シリーズを通してレイニラ↔︎アリセント、ヴィセーリス↔︎デイモン、ヴィセーリス↔︎レイニラと散々強調される「親友だけど…争わないと…」みたいな改変はなんなんですかね。悲劇性を強調したいのかもしれないですが、1㍉も合いませんでした。

・私がGoTの好きなところは登場人物が全員”意思と信念”を持っており、たとえその意思がどんなに倫理的にカスだろうが、全力で意思を通すために暴力的にも政治的にもバチバチに戦うことの面白さがありました。わかりやすいのはサーセイやサンサで、私はサーセイもサンサも彼女らの生き方は全く好きではないですが、自ら決めた生き方を通すための覚悟のキマり具合は観ていて面白いんですよね。一方で本作はなに…?まずそれぞれがどうしたいのかも伝わってこない…。アリセントも別にそこまで王座が絶対ほしいわけじゃなさそうだし、レイニラもデイモンもどうしたいの?ずっとぐちぐち言って不平不満を漏らしてるだけにしか見えないんですよね。

・アリセントとレイニラに日々信念のために習慣レベルで研鑽を積んでいる描写が全くなかったのも不満でした。サーセイ/ベイリッシュ/ヴァリスは言わずもがな暗躍にために日々スパイを管理しているわけですし、キャトリンがティリオンを捕縛するシーンではキャトリンが氏族全ての名と近況を覚えコミュニケーションを取っていることがわかります。ネッドスタークの処刑は当主が行なう習慣もそうです。マージェリーの城下町の貧民を訪れるシーンもそうです。そういったふと見える仕草に各キャラクターのバックボーン、優秀さ、覚悟の深さ、奥深さが見えてくるので好きなのです。その場の口だけではない習慣レベルの背景が。対してレイニラとアリセントは普段なにしてるんですかね?遊んでるだけにしか見えないんですよね。愚痴ばっか言ってないで何かしら不満を解消する行動を取れよとしかならないわけです。2人以外にもそういった努力やプロ意識のようなものが見えるキャラクターはいたでしょうか。そのあたりが全てのキャラクターがGoTに比べて浅っっさく感じてしまいます。

・エイモンドが成長して「うぉーーーーついに躊躇いなくアクセルを踏むキャラが出たー!」と歓喜しました。そしたらすぐに「本当は兄よりも自分の方が王に相応しいはずだ!」。はい失望。そう思ってるなら準備しろよ。極め付けは最終話のまさかの死んじゃった〜。イキってただけかよ。心底がっかりです。そこら辺のヤンキーレベルかよ。

・途中までは戦いが始まらず(長く戦争もなかった時代がゆえの)政治メインだからなのかなと思っていましたが、戦争が始まってもこの体たらくなので、今後も永遠に「殺したくないけど…死んでしまった…あぁ〜悲劇」を展開されるのかと思うとうんざりですね。

・シーズン途中であまりにもこの「不条理…悲劇…」みたいな作風が合わなすぎて、「これ原作からそういう感じなの?」と思いとうとう原作を読んでしまいました。以下、原作で確かめた結果と印象です。※あくまで原作のシーズン1にあたる範囲です
・レイニラ継承戦争の準備しろよ→原作でも不準備でした
・レイニラとアリセント→全く親友じゃありません。アリセントは終始王座求めまくりでサーセイのようなキャラ
・ヴィセーリス→終始レイニラの味方。なのでレイニラが油断してたのも少しわかる
・デイモン↔︎ヴィセーリス→巨大感情は何もない
印象としては権力絶頂の貴族の愚かさは描かれていたもののウジウジ不条理作風はドラマオリジナルということがわかりました。元々は意思を持ってアクセルを踏み抜いた結果の史実(シナリオ)なのに、ドラマでは毎回「本当はやりたくないけど…」を挿入してくるので、「そうはならんでしょ」「他にやり方あるでしょ」が積み重なっていくんですよね。ヴィセーリスのエイゴン違いも原作にはありません。

・改変によってとりわけ不満が大きかったのがヴィセーリスによるドリフトマーク継承権に対しての裁判。原作ではヴィセーリス自身がレイニラ有利の判定を下します。そして反対したヴェイモンドの舌を抜くように”ヴィセーリスが”命じます。それがドラマではヴィセーリスはレイニスに意思を尋ねるだけ。レイニスがレイニラ不利の希望を言ってたらどうするつもりだったんですかね?レイニラにあんだけ助けてと言われて全く助けてませんけど。レイニスの決断もただレイニラが婚姻話を持ちかけた結果じゃん。そもそもレイニスに尋ねるためだけにわざわざあんな頑張って歩いたんか?謎。そしてドラマではデイモンがヴェイモンドを殺してますが、なんの正当性があって殺してんの?原作はあくまでヴィセーリスが子どもたちの喧嘩の際にした「今後落とし子という噂を口にした者は舌を抜く」という発言(これはドラマでもしていましたね)を回収してヴェイモンドの舌を抜くんです。王でもなくこの件になんの決定権も持たないデイモンはなんで殺せた?ノリか?こういった全ての細い改変から本作の脚本が各キャラクターの行動背景を大して詰めず適当にインパクトとドロドロ感のあるシナリオだけ選んで”史実という結果”をなぞっているだけと感じてしまうんですね。

・あとは時代なのか近年ハリウッドで流行っている「女はつらいよ」作風を永遠に見せられるのもめちゃくちゃキツかったですね…。たしかにGoTは暴力的な作品でしたが、別に女だからで作内蔑視されてた作品じゃないですよね。まずアリセントが嫌々子ども産んでますが、全く同じロールである政略結婚で世継ぎを産まなければいけないサーセイが初手で結婚相手を出し抜いて好きな人と子どもを産むを達成してしまっているので、アリセントしょぼ…としかならないんですよね。典型的な女性ロールを嫌ったアリアはネッドが稽古をつけてくれたという幸運はあったものの日々自主的に鍛錬を積んでいましたがレイニラはそういう気概はあるんですかね?GoTで男性優位なのは暴力的な世界だからですが、逆に竜という圧倒的な武力を得た後のデナーリスの女王就任に「女だから」で反対したキャラいましたかね。圧倒的な武力を持つターガリエン家なのに「(レイニスいわく)女性が王になるくらいなら…」の超女性蔑視文化は何が理由なんですかね?(これも原作にはありません)そもそも他の諸侯が同意しなかったところでターガリエン家は燃やせば終わりなわけで気にする必要すらないのですが。ブライエニーは男性よりも強い女性でしたが、事情を知らない初見の敵には馬鹿にはされても男をボコボコにしますし普通に身内内では最初からかなり地位の高い兵士であり、最終的に騎士の称号も得ましたよね(大好きなシーンです)。それでいてサーセイやマージェリー、サンサの生き方も否定しませんでしたよね。そもそも非力という属性は女性だけでなく男性にもそういうキャラがいるわけですが。撮影現場での性行為シーンへの配慮などは素晴らしいことだと思います。が、世界観としてGoTに対してハウスオブザドラゴンのひたすら女はしんどいを強調する演出がジェンダーステレオタイプを廃した作品なのかは私はわかりません。個人的にはむしろ強調しているように感じられたのですが。

・ハウスオブザドラゴンがあまりにもしょぼい露悪的で醜悪なお家騒動みたいなものをやりすぎていて、ちょうど同時期に力の指輪が配信されていたこともあり「HBOは結局普遍的な義や善性を描けない露悪的なエログロエンタメしかできないことの限界かな…」と感じてしまった瞬間すらありました。

・ただ冷静に振り返れば別にGoTは露悪だけの作品というわけではないんですよね。もちろんエログロと醜悪な争いも一つの大きな持ち味ですが、デナーリスのいわゆる建国パートはずっと義の話をしていましたし、スターク家は言わずもがな。ティリオンやハウンドなどの情もありました。だからこそ最後に大いなる義で集結する長き夜で感動したわけです(なので私はGoTのドラマオリジナルの最終シーズン結末はなかったことになっているわけですが)。たしかにラニスター家の悪意がヒールとして魅力的だったことは事実ですが、私は別にGoTというシリーズは醜悪だから面白いとだけ感じたわけではなかったんですよね。

・ハウスオブザドラゴンがそれら義や善性の魅力がほぼ皆無で、さらに意思の物語である側面を削ぎ落とし、ファンの間で「うわ〜地獄〜うわ〜悲劇〜」と内輪で盛り上がるだけの作品に成り下がってしまったのが残念でありません。典型的な海外ドラマのシーズンが続いて手癖脚本になる現象を感じました。この物語が何を描く物語なのか見つめ直してほしいですね。まぁGoTと違って絶対悪が存在する物語じゃないので仕方ない側面はわかりますが、それでも互いの義をバチバチやらせるとか、百歩譲って醜悪な身内争いだけにするにしてもサーセイvsタイレル家くらいの高度な争いを見せてほしいものです。

こうやって書き連ねると、精神性は醜悪ばっかだしエンタメとしては暴力が足りてないしジェンダーの描き方も好きではないしオマケでソノヤ・ミズノのアジア人役者の起用法(意味不明な訛り)も嫌でしたし、なんかことごとく求めていたものから外されてしまいました。役者・美術・衣装・音楽・演出など表層的な部分は本当に素晴らしい出来だったんですけどね〜…残念です。
サンタフェ

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