故ラチェットスタンク

シー・ハルク:ザ・アトーニーの故ラチェットスタンクのネタバレレビュー・内容・結末

2.4

このレビューはネタバレを含みます

『全員、敗北。』

伝えたいことがとっ散らかっていて目移りしすぎていた印象。
最初はかなり小さいスケールで「まあ……………これはこれで…」と思っていたのだが、つまんないので飽きて5話あたりからはその週中に観なくなってしまった。
(7話飛ばして8話先に観たり…)

漂白された絵柄にテンポの悪い会話としょうもないギャグ、酷いVFX、そして著しく欠いた現実味などなどいつも通りの悪い点が3倍マシで展開されていく様は、正にMCUの負の側面の総本山と言ったところか。

物語としては7話で完結している所があり、「依存を捨てて1人でも生きる」という良い物語ではある。(ジェニファーの視点としては)そこまで良い男性に恵まれて来ず、年齢もあり焦っていたが、カウンセリングを通して心にゆとりを持つ。その後、DDと良い関係になるのは自然な流れであるし、ゲスト出演である以上に物語的側面においてよく機能している。

劇中においてジェニファーはアイデンティティを確立しかねる女性として描かれる。
シーハルクでいる事で他者から注目を得られるが、ジェニファーの側面に興味を持っている人がいない事は常に強調されている。
職場では広告塔としてシーハルクになるように言われ、デスクも椅子も部屋もそのための物を用意される。
そして彼女自身も「私はジェニファーである」と何度も宣言していながら、出会い系アプリで男を釣るため、シーハルクの側面を強調する。
世間からシーハルクとして判断されてしまう悪い面には苦言を呈す割に、パーソナルな関わりにおいては「注目されることができる」という恩恵にあずかろうとする。

他人から変身を強要される場面もあれば、禁止される場面(結婚式のあそこ、胸糞悪い)もあり、自身で変身を良しとする場面も悪しとする場面もある。

この辺りは(微妙なギャグが多く辟易しながら鑑賞しプッツンスレスレのストレス値で観ていたが、)悪くはない筋書きである。
周囲の反応と彼女の内面にある「歪な矛盾」にこそジェニファーの物語がある。彼女の行動の矛盾にかこつけて「好きになれない」というのは自由だけど、そもそもこのドラマ自体がそういう話なので。
7話でジェニファーは自身でジェニファーでいることを選ぶ。ここでようやくスタートラインに立った訳だ。

メタ視点から見ても、フェーズ4らしい、大きな文脈と小さな文脈の両立を目指す物語にはなっている。

そしてそれを完璧に体現している存在として描かれるのがヘルズキッチンの命知らずの守護悪魔、史上最強の盲目弁護士デアデビルことマシュー・マードックだ。
彼との交流を経て二面性の両立を学ぶ。客演でなく物語に必要不可欠な人物として完全に機能している。ベストエピソード。
アクションもパッケージの中で頑張っていた。まあまあ満足!

あと彼の登場がスムーズで素晴らしい。今作ではEG以降の世界において超能力者が日の元にあることが言及されており(不死身のおじちゃん、ミュータント連中、ケープフロッグなど)ドラマ「デアデビル」を鑑賞していなくても彼の存在が簡単に飲み込めるように設計してある。あとマットが出てるとこだけ脚本の密度が段違い。台詞の密度とリズムが全く違う。
彼が出てることだけを確認して鬼の首を取ったのように「フェーズ4はファンサばかりだ!」と言う人多いんだろうな。NWHの時と同じで。身内にも外にも真っ当に届けようとしているのに。

しかしこれがラスト1話でぶち壊されている。原作準拠と言えば聞こえは良いし発想としては面白い第4の壁の突破によるシナリオ変更であるが、正しいカタルシスとは全く思えなかった。
事前の種まきが為されていないことは勿論だけど、「シナリオを変更」することで、他のキャラクターを自分に都合よく動かすという結果になってしまっているのが皮肉。

ファーストエピソードでバナーからの心配を跳ね除けている行動へのフォローがないし、「女の欲望」と言ってDDを登場させて付き合うのもどうかなと。
ブロンスキーを浅はかな人物に落としたのも一切納得できない。

考察ばかりしてサービスを求めるファンに中指を突き立てて「これが私の人生だ」と言い切るのは結構だが、物語を真面目に追っていた真っ当なファンも同時に敵に回している。

ガールズエンパワーメントというより自分勝手な人を増やすだけじゃないかこれ。