Morohashi

イカゲームのMorohashiのレビュー・感想・評価

イカゲーム(2021年製作のドラマ)
4.6
タイトルのイカゲームは、本当にイカでした。あの、海の生き物で、寿司ネタのイカです。
地面に描く模様がイカみたいなので、イカゲームと呼ぶそうです。本当に韓国にある遊びらしいです。

で、多くの人の指摘の通り、ポップな色使いと、気の抜けるような音楽でありながら、激しく血が飛び散ります。人体欠損の描写はほとんどありませんが、血はすごいです。

ですが、この映画、そういったスプラッター的な要素、ハラハラするデスゲームの要素はむしろ表面的で、最も重きを置くべきはこのメッセージ性にあります。
意識的か、あるいは無意識的かはわかりませんが、このドラマにハマる人はみんな、このドラマに隠されたメッセージに共感しているはずです。
それは「資本主義への疑問」そして「コロナ禍で見た死生観」です。

[以下、ネタバレを含みます]


資本主義では、基本的にどんな人であっても平等に勝者になれる可能性があります。それが自由競争というものです。
そして、資本主義のエッセンスを絞り出していくと、何をするにも金がかかる。つまりいつしか、金=人間の価値(命)となります。
このゲームの中では、他人を殺してでも自分が得をする選択をする人がいます。でもそれでいいの?と疑問を呈する人もいます。
これはドラマなので、そういうデスゲームの要素に注目されがちです。が、命を「金」に見立てると、実はこの世界には他人から金を奪ったり、巻き上げたり、不当に少ない金銭しか払わなかったり(=搾取)という構図には枚挙に暇がありません。
ビー玉の回でも描かれますが、親しい存在を騙したり、競り勝ったりしてでも自分を正当化することも起こることがあります。

この作品中で途中からVIPという存在が登場しますが、彼らは全員外国人です。これが何を意味しているのか。
資本主義とは、外国から持ち込まれたものであって、韓国に元からある考えではありません。
外国の資本が多数参入し、外国人たちが韓国人の金や労働力を使って自分たちの私腹を肥やしている。他人の金(命)を使って楽しんでいるわけです。
韓国にとってみれば、これは朝鮮戦争にとても近い、代理戦争のような構図です。脱北者云々の描写も、結局のところ、アメリカンドリームに憧れた存在として描かれています。
2019年の映画「パラサイト」でも描かれていますが、韓国は近年貧富の差が拡大しました。これは富裕層への課税を緩くした結果、自由競争が加熱したことを意味しています。
実はこれと同じことが、アメリカ・日本・欧州各国でも起こっています。だからこそ、世界中の人に共感されるのです。

なお、途中でガラス職人が出てきます。
彼はとても役に立つ存在でした。彼の見方として、いわゆる「専門職」という見方もできますが、同時に「真実を見抜く力」とも取れます。
専門職と取るならば、彼はものをより良くできる存在です。でも、とにかく時間がかかります。大量生産を前提とする資本主義では、そういう存在はあまり良く思われません。
また、真実を見抜く力とするなら、つまり彼は、甘い資本主義の姿に隠された苦い真実を暴く存在です。不都合な部分を見られそうになったから、消されたのです。


そしてポイントは、「みんな望んでこのゲームに参加している」ということ。
それまでの世界にいても地獄。ここでも地獄。
ならば、この命をきちんと意味のあるものとして使いたい。
コロナ禍で、もはや自分がいつ死ぬかもわからない時期があって、悔いなく生きたいという共通の願いが、この作品への大きな共感を呼んだのではないでしょうか。


そして最終回に出てくる、主人公に魚をくれるお母さんこそが、韓国に元から根付く助け合いの精神の象徴です。
主人公は、001番の老人がおもらししたことを自身のジャージで隠そうとしますが、これもまた文化に根付く考え方です。
結局のところ、人間の幸福とは金銭で計れるほど単純なものではないのかもしれません。その証拠に、主人公はピタリとギャンブルをしなくなりました。あんなにハマっていたのに。

助け合いの精神、つまりは人間同士のつながりこそが
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