ゴトウ

離婚しようよのゴトウのレビュー・感想・評価

離婚しようよ(2023年製作のドラマ)
4.0
面白かった!松坂桃李のダメ夫役ハマりまくりで愛らしい。クドカンによる『あまちゃん』セルフパロディあり、マンガチックなキャラ立ちとドタバタ展開ありでドラマ好きがネトフリで一気見するのにも合っていたのではと思った。なんだかんだで根強く残るジェンダーロールや家族道徳のしんどさ、恋愛と肉体的交わりの結びつきへの疑問は『あなたがしてくれなくても』とも共通していたように感じる。妻=女優、夫=代議士という構図を持ってきたのも、母なり妻なり「巫女ちゃん」なり、求められる役を演じる(ように圧がかかっている)女性と、責任ある立場に立たされ、自信のなさを表に出すこともできない(ように圧がかかっている)男性それぞれの息苦しさ。それまでどれだけ険悪な空気であろうが「生配信の時間がくればオートマチックに笑顔でカメラの前に立つ」演出が繰り返されるのは滑稽でありつつ、違和感を覚えている規律がそれに逆らえないほど内面化している苦しさを浮き彫りにする場面でもある。あるいは「不倫に怒る人」「政治家をバッシングする人」といった形で描写される「世論」の個人に対する強制力を描いているともいえるかもしれない。最後の最後、配信で見せる二人の笑顔は心からのものだったと思いたい。

選挙周りがリアリティがないとか描けていないとか言われているのも見たけれど、実際にあった政治家の発言を引用するだけで「軽薄な政治家」を描けてしまう皮肉をサラッと入れ込んでいて個人的には面白かった。明らかに自民党を思わせる政党から出馬している大志が、規範的な家族道徳や「巫女」を持ち出して当選を図ろうとする(一方で不倫はしてる)のとかも結構面白い(し、そこで落選したあとで妻に頼らず当選を果たすというのも良い)。対抗馬の想田も、ネトウヨチックな「野党は文句ばかり」的人物像というよりは、メディア映えするパフォーマンスと攻撃的な物言い、行政の無駄叩きとかにはむしろ維新っぽさを感じた。というか、想田の「200%ない」みたいなのって橋下徹が似たようなこと言ってなかったっけ?

婚姻関係という形にとどまらなくても、支え合って子どもを育てていけるなら別に良くね?というオチ、『あなたがしてくれなくても』の絶望的な敗北宣言オチよりはまだ希望が持てるものではあった。保守的な価値観に対してオルタナティブを提示するというよりは、ほどほどの距離を保ちつつ付き合っていくというような落とし所。つまりは「結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私は、あなたと結婚したいのです」というか、「あなたとでなくても育てられるこの子を、私は、あなたと育てたいのです」といった感じですよね。実際あんなふうにトメ(ガルちゃんの言い方)と仲良くなれるのかとか、サレ夫とサレ妻があんなに仲良くなれるのかとか気になるところはあるけれど…。大志たちは間違いなく上級国民だし、ゆいの実家みたいに力強く雑草魂で生きていける人ばかりじゃないだろうし、散々振り回されたであろう想田の妻には葛藤はなかったのか?とかいろいろ気になるところもなくはないけれど。誰がどう見てもエロい錦戸くんがセックスできない男という設定も意外性が利いていてよかった。

まぁでも松坂桃李のダメ男っぷり、古田新太と板谷由夏の弁護士二人絡みのシーンとか、胡散臭すぎる事務所社長とか、頭使わずに面白く見られた。なぜか人から愛される、のに「自分は誰にも見てもらえない」と感じている男、どこか自分の人生に他人事な男が少しずつ自分のダメさと向き合っていく話なんだ、とわかってからは泣けてくる場面も多々あった。あんなに欲しかった自分を褒める言葉を、妻と不倫していた男から(!)もらって涙するところとか、もらい泣きせずにはいられなかった。
ゴトウ

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