雪花

ゴシップ#彼女が知りたい本当の○○の雪花のレビュー・感想・評価

4.8
出版社のwebニュース部門「カンフルニュース」を舞台に、現代のフェイクに斬り込んだ社会派風お仕事ドラマ&ヒューマンドラマ。

初回、ヒロインの瀬古凛々子(黒木華)がコミュ障気味で共感できる要素が一つもないので、一瞬脱落しかけました。が、回を追うごとに凛々子の暗い過去が明かされていき、だからこそフェイクではない真実を追い求めていく彼女の姿に、カンフルニュースの同僚達や取材を受ける人達が、心を突き動かされていくところに、ぐっと共鳴し毎回泣きながら視聴していました。
 
凛々子へのネットでの理不尽な誹謗中傷に一緒に泣き、キャンセルカルチャーの話から凛々子が過去と向き合い感情を解放した姿にもらい泣き。ネコ占いに隠された婚活アプリの闇にも大号泣。

そして最終話...。
クスノキ出版の吸収合併、就活生への性的暴行事件、その裏に隠された隠蔽を暴いていくサマは息を呑む展開。凛々子と被害者未央(生田絵梨花)の件はもう涙なしでは観られませんでした。(生田絵梨花ちゃんの迫真の演技は吸い込まれました)
 
このドラマは、小さな見過ごされそうな社会問題を掬い上げ、仕事とは何か?を問い、仕事を通じて成長していく人間ドラマでした。

と、同時にヒロイン凛々子と、上司の仁和との間にある共依存関係の離脱の物語でもあると思いました。

だから、仁和さんとの出会いが土砂降りの雨の中であるのに対し、根津君との再会は光差す陽の中で素晴らしいラストシーンだったと思います。

根津君役の溝端淳平さん。本当に愛ある男でした。時に見せるニヤっとした悪い顔も魅力的でした。
 
凛々子の事を中学時代から慕う笹目君(寛一郎)も魅力的でしたね。彼はちょっと初恋を拗らせた部分もありましたが、ストレートでど直球。凛々子を見つめる眼差しはいつも熱かった!

キタニタツヤさんの主題歌「冷たい渦」「プラネテス」は哀愁が漂う中にほんのり明るい未来が見える心に残る素晴らしい音楽でした。
 
黒木華ちゃんの凛々子最初は声のトーンが低く顔も無表情でしたが、徐々に顔や声に抑揚や表情が出てきて人間味のある役どころでした。黒木華ちゃん、素晴らしかった。地味に名作なのにDVD化しないのが謎。
 
⚠️考察/ネタバレあり



 
 
仁和は、高校の国語教師であった凛々子の母親の葬儀で、大学3年生だった凛々子と出会い、凛々子を自分の勤める会社(クスノキ出版)に入社させ、彼女を支えてきた男です。

恐らく...ですが、妻の美波(鈴木砂羽)と離婚寸前に凛々子と出会った仁和は、彼女に頼られたりする事で自尊心を保ち、凛々子は母の代わりに仁和に依存し彼の為に働く事で生きる意味を見出していたのか...と感じました。

仁和は最初は本当に彼女を護ろうとしてきたかもしれませんが、凛々子が有能過ぎて、仁和の中に野心が芽生えてしまったことで、凛々子の献身さを利用し裏切り、結果、凛々子に見限られあの顛末になってしまったのかと。
 
しかし、厄介なのが彼の打算の中に、凛々子への愛があった...ということ。ドラマでは仁和は語っていませんでしたが、ノベライズ本に彼の凛々子に対する気持ちが書かれてありました。

多分、仁和は美しく無垢な凛々子を籠(自分のテリトリー)の中に閉じ込めて置きたかった。「お前はそのままで良い」「お前は変わらなくていいんだ」は呪縛の言葉でもあり、自分から離れてもらいたくない懇願の言葉でもあったのだと思います。
 
だから編集部員と仲が良くなるのを嫌い自分から離れるのを恐れたので、週刊東西にフェイクを書かせたのでは?と私は思います。あれほど「匿名のネットの声に惑わせるな」と凛々子を励ましていたのに。野心と嫉妬が仁和の気持ちを変な方向に進ませてしまったのですね。

まあ、凛々子を失い、会社での立場も危うくなるという自業自得な結果を招きましたが、自分の野心の為に送り込んだ「カンフルニュース」で、凛々子はかけがえのない仲間を得て人間として成長を遂げ、一生の仕事、そして共に横を歩いていくパートナーに出逢わせてくれた...と言うのはなんとも皮肉なものです。
 
同期で最初は犬猿の仲であった根津君(溝端淳平)は、裏口入学疑惑の取材を通し、過去の自分を見つめ直し凛々子に救われた一人。彼女の本質や苦しみや痛みを知るうちに、彼女を守るだけでなく彼女と共に横を歩いていく事を選ぶ男性となります。
 
仁和さん役の安藤政信さん。良い人と思わせなかなか悪い男役は見事でしたね。が、実は深い愛が隠されていたなんて...
 
川辺の遊歩道での二人が触れるか触れないかのギリギリのシーンはドキッとしましたよね。あっ、小説では二人の距離はもっと...近いです。ラストの廃人のような姿はグッときました。
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