daichi

あなたに聴かせたい歌があるんだのdaichiのレビュー・感想・評価

4.5
若さは残酷だ。だって選択肢が無数に存在するから。もし間違った選択をしてしまったとしてもそこからまた挽回できる余地はある。
けれど若さは有限だ。選択肢は年をとるにつれ徐々に減っていき、好きなことへの熱量も擦り減らしながら生活を生きなければならない。もしその生活が平凡だとしても、生きなければならない。至高だとしても至高なりの苦悩もある。悩みの種は尽きることはない。後戻りも出来ない。そして死ぬ。生きるということも総じて残酷だ。
生きることがこんなにも残酷なことなのか、頭では分かっていても我々はなぜ生き続けてしまうのか。
答えは案外単純である。こういう糞でもないミソでもない、まるでブックオフの100円コーナーをたまたま覗いて買ってみた本が大当たりする感覚、いわば今作のような行き当たりばったりで観たものが心に染み入るこの感覚(豊かさ)を得るためではないだろうか。この地獄のような現代において豊かさを見出すことは、幸せを見つけ出す手段でもありながら同時に生きづらさを見出すことと同義であるため、この生き方を持ち得ることで生活は即劇薬となる。そのジレンマこそ我々に喜びや感動を与え、悲哀や焦燥など数々の感情に取り巻かれながら、我々は生かし続けられているのではないだろうか。平凡だけど退屈じゃない。結構。目指す何かがある。大いに結構。ここまで生きてきたけど、やっぱり何かが違う。それもまた、結構。
最後は死という平等な終焉を迎えるから。それまで何をするか。生きるとは呪いだ。

物語ることと生きること。私は出来ることならば生きたい。
daichi

daichi