ソウキチ

ステーション・イレブンのソウキチのレビュー・感想・評価

ステーション・イレブン(2021年製作のドラマ)
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I remember damage

現実においても未曾有のパンデミックを経た我々にとって「痛みを覚えている」という冒頭のモノローグ、実際は映画のように派手なパニックじゃなく静かに成すすべなく世界の終わりへと進んでいく過程が、これまでのどんな映画やドラマよりも生々しく刺さる。緊急事態宣言中の街を思い出す。

そういう時にこそ、偉大な先人の遺した芸術が、それを演じる現代の優れた役者が、どれほど人の心に希望を紡ぐのか。
現実世界において政府が真っ先に"不要不急"と切り捨てた芸術がいかにヒトを人間たらしめるのか。

まるでバトンのように継がれていく一冊のグラフィックノベル。レビュアーもファンダムもいなくなった終末世界で、シェイクスピアと無名の同人作家が同等のパワーを持って散り散りになった人々を繋げ、再生させていく。その顛末にあたたかい涙がこぼれ、公私ともにエンタメに身を置く者としてすごく救われた気持ちになった。

ドラマ然とした演出は抑制されていて、ストーリーも若干高尚さがある為、万人には薦められないかもしれない。しかしこの作品がコロナ禍とシンクロしたこともまた芸術の起こした奇跡のひとつだと思うので、すべての芸術を愛する人に観て欲しい作品。
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