無影

暴太郎戦隊ドンブラザーズの無影のネタバレレビュー・内容・結末

暴太郎戦隊ドンブラザーズ(2022年製作のドラマ)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

5歳の時以来本格的にハマった特撮でした。縁ができて良かった。

思うに、本作で好きだったのは、以下の5点です。
①ちゃんとヒーローしてる
まず、ドンブラザーズはちゃんとヒーローしてるところが大好きでした。ドンブラザーズというと、「戦隊らしくない」「ニチアサというより昼ドラ」「狂ってる」「井上敏樹エキス100%」など、ヒーロー番組らしくないという評判が目立ちます(実際カオスなのは否定しない)。けど、ドンブラザーズの奥底には、人々を守るヒーローとしての哲学がちゃんと横たわっていたと思います。
ドンブラザーズを一言でまとめるのは難しいですが、基本的な構図として、ヒトツ鬼を巡るドンブラザーズと脳人の戦いであることを挙げられると思います。ヒトツ鬼は人の欲望が暴走した姿。それを脳人は波動を乱す醜い存在として容赦なく消去しようとし、ドンブラザーズは人に戻そうとします。この点で、ドンブラザーズと脳人の間には緊張関係が存在します。ドン2話では、はるかがヒトツ鬼になった人を消去しようとするソノイに憤慨して立ち向かう姿が描かれていますし、タロウは事あるごとに、ヒトツ鬼に対して「元に戻してやる!」と口にしますが、これもその緊張関係を象徴しています。
ヒトツ鬼になる人間は、ソノイたちの言う通り、基本的に醜いです笑。自身の絵のモデルとなる女性を誘拐したり、構ってほしくて迷惑行為を繰り返したり、強さを求めて忍者の修行をしたり、妻が怪我をして車全部を消そうとしたり、妻が好きすぎたり…治安が最悪な王苦市だけの存在であってほしいですし、近所に住んでいてほしくはないですね…笑
しかし、それでもタロウは、彼らと「縁ができた」と言って、何度でもヒトツ鬼から元に戻そうとします。どれだけ醜い存在でも、縁ができた人は決して見捨てない。ドン15話でヒトツ鬼となった雉野に対しての「今度はお前が戻ってくる番だ」との台詞や、ドン32話で再度ヒトツ鬼として登場した冒険おじさんに対しての「何度でも元に戻してやるぞ!」との台詞は、まさにタロウのその姿勢を象徴していると思います。
タロウの姿勢は、現代に生きる私たちが忘れがちな姿勢だと思います。犯罪者は全員死刑にしろ。迷惑行為をする奴には厳罰を科せ。生産性のない人間は不要だ。昨今ネットを彷徨っていれば簡単に遭遇するこれらの言説は、どちらかといえばソノイたちに通ずるものがあると思います。自分にとって邪魔だったり不要だったりする人間にはいなくなってほしい。人間が本来持ち合わせている素朴な感情です。
それでも、タロウならきっと、すれ違っただけで「縁ができたな」と言って、その人たちにも手を差し伸べるでしょう。ドン3話を観れば分かる通り、タロウも、罪を犯した人は相応の罰を受けるべきと考えています。しかし、その存在自体が否定されてはならない。縁ができた人は全員助ける。タロウにはそのような大前提があります。そして、小前提として、「袖振り合うも他生の縁」と口にします。したがって、三段論法的に、タロウはどんな人も全員助けようとするのです。
「異色作」や「カオス」と言われがちな本作にあって、タロウは1年間を通じて、私たちが見習うべきヒーローとしての姿勢を体現してくれていたと思います。

②お話のバランス感覚
次に、情報量の洪水とでもいうべき本作にあって、それをどこで出すか、どれぐらい見せるかのバランス感覚が絶妙だったのも素晴らしかったです。
まず、前提として、本作の謎は、(分かってはいましたが、)すべては明かされませんでした。ヒトツ鬼ってそもそも何なの? 脳人ってそもそも何なの? アバター世界は何なの? 何でマスターと介人は同じ姿をしているの? キビポイントって何なの? 何でヒトツ鬼は歴代戦隊のモチーフなの? ドンブラザーズに選ばれるって何なの? 何でソノイはからしで元に戻ったの? 何なら謎の方が多いくらいです。
けど、本作はミステリーではありませんから、すべての謎を明かすことに意味はありません。むしろ、面白い話を組み立てるためなら、すべての要素を明確にせず、適度にぼかしておいた方が良いこともあります。本作の世界観の詳細を説明することに時間を割いていては、あのように濃厚な人間ドラマは描けなかったでしょうし、逆にぼかしておくことで、柔軟にキャラを動かし、より円滑にお話を紡ぐことができたと思います。
縦軸の選択
すべての謎は回収しないといっても、はるかの盗作騒動から始まり、なつみほ問題、獣人問題、ジロウの二重人格、ムラサメとマザー、翼vs雉野、ドンブラと脳人の交流、異次元から来たはるか&猿原、ペンギン獣人、そして最後の最後にタロウの記憶喪失と、お出しされた要素は膨大で、毎回30分観終わったは頭パンクしてました笑。しかも、これらが全部同時並行で展開していくのがエグイ……笑。
けど、その分中弛みなどは一切なかったです。どの縦軸も魅力的で真相が気になりましたし、それらが徐々に交わっていく小気味良さもあって、連続ドラマを追う醍醐味を思う存分味わえました。なつみほ問題とジロウの二重人格が獣人問題に収束していったのは、もはや鳥肌立ちました……先ほど、タロウは縁ができたすべての人を見捨てなかったと書きましたが、それは人ではない異形であっても同じで、脳人も獣人も、決して見捨てませんでした。そう思うと、すべての要素が異なる者同士の共存というテーマで繋がっていましたね。脳人の末裔であるタロウとジロウが人間のお供を引き連れているドンブラザーズ然り、桃鬼犬と心を通わせたイニザ然り、人に害を為す存在でも森で暮らすことを許された獣人然り。縁のできたものは決して見捨てない。アギト、555、キバにも見られる井上敏樹大先生の作品らしいテーマがここにもありました。
また、縦軸を進めるためにキャラが動くのではなく、キャラが日常を歩む中で縦軸が進んでいったのもとても良かったです。
ドンブラザーズは、基本的に変人たちが織り成す日常コメディで、あれだけの縦軸を抱えながら、それにはほとんど触れずヘンテコシットコムをしていたりした回もありました笑。日常回にそんな尺割いて大丈夫なの?と何度思わされたことか。けど、その分キャラに積み重ねが出来て、気付けば皆のことが大好きになっていましたし、いざ縦軸を解消した時のカタルシスも尋常でなかったです。縦軸に関係ないコメディ回での積み重ねがあるからこそ、脳人のドンブラ加入もすんなり納得できたし、みほこと鶴獣人の死にもあれだけ感動できました。
そして、いざ縦軸を回収していくターンになっても、情報の出し方のバランス感覚が巧みでした。
例えばなつみほ問題。まずドン5話でみほと夏美が同じ顔をしていることを明かして、両者が同一人物である可能性を示唆し、みほは記憶をなくした夏美なのではないか?雉野は幻覚を見ているのではないか?などと視聴者に波乱を巻き起こします。そこで興味を引きつけつつ、お話は獣人問題を掘り始め、鶴獣人の存在が示唆された段階で、初めてみほが鶴の折り紙を折りました。それからはみほは雉野のいないところで人外らしきムーブをし出し、翼も夏美を求めてみほに接近します。そして、タロウが獣人の存在を知ると、鶴獣人に接触。それを軸として獣人問題が一気に明かされていきます。その延長に、ドン34話「なつみミーツミー」があるのです。2つの縦軸を巧妙に絡ませながら、キャラの感情が最大限に爆発するポイントでその結び目を解く語り口。最高です。それでいて、ドン34話で翼と雉野が衝突し、次回はその続きが描かれるのかと思いきや、翼はあっさり釈放され、さらなる問題である獣人の森へお話は誘われます。この1つの要素に執着しない潔さも好き。

キャラが皆好き
3つ目は、先ほども述べましたが、キャラが皆好きという点ですね。これはちょっとここでは語りつくせないです…

④キャスト・スタッフへの絶大な信頼感
4つ目は、キャスト・スタッフへの絶大な信頼感ですね。
まず、ドンブラザーズは、全員あてがきか?って思ってしまうほど、キャラがキャストの皆にぴったりでした。樋口くんのあの堂々とした立ち居振る舞いは完全にタロウだし、話し方が穏やかで理路整然としている別府君は教授にぴったりだし、こはくちゃんの愛嬌抜群の変顔マスター具体ははるかに不可欠だし、背が高くて色気のある男らしさを讃えながら天然な可愛さもある柊太朗くんは翼にもってこいだし、基本良い人ながら陰のある難しい役柄な雉野は鈴木さんが演じて然りでしたし……その他ジロウもイニザもシゴロも全員あのキャストしかいなかった。
また、キャストが皆才能の塊だし、話せるし、人柄も良いしで、確実にドンブラザーズの盛況に一役買っていました。特にドンブラの5人は制作発表の時から堂々とした受け答えで落ち着いたやり取りを見せていましたね。その後も、折に触れてインスタライブをやってくれたり、鈴木さんがドンチャンでは監督脚本、Gロ第3弾では脚本を務めたりと、キャスト発の話題も事欠きませんでした。ドンブラザーズのお話を再現できる能力もありながら、エンターテインメントとしてお客さんを盛り上げ、引き付ける力もある。この作品にこのキャストが集まったのは、もはや縁というには足りないぐらいの奇跡でした。
そして、スタッフ陣については、もはや信頼しかありませんでした。そもそも自分がドンブラを見出したのも大先生が脚本を書いてるからですし。白倉Pと田崎監督と大先生。長年日本の特撮界の一角を牽引してきた三者の熟練ぶりが遺憾なく発揮されていて、息もぴったりでした。
それを特に感じたのは、ドン27話「けっとうマジマジ」の最後の決闘場面です。タロウのザングラソードがソノイを斬るところでBGMがいったん止みますが、オーコメによれば、あれは田崎監督が「井上先生ならこの間だと思う」ということで採り入れた演出だったそうです。言葉を交わさずとも互いが互いの意図を汲み取り、出来得る限り最高の作品へと仕上げる素地があったからこそ、出来た業だと思います。
また、オーコメやドンチャンなど、おそらくAP陣によるものであろう企画も全部大好きでした。どれも視聴者の需要とマッチしていて、そこら辺のセンスも抜群でした。

⑤アクションや武器がちゃんと格好良い
最後は、アクションや武器の格好良さです。代表的なのはドンオニタイジンですが、単純にドンブラザーズや脳人のキャラデザも格好良くないですか?ヒトツ鬼も歴代戦隊モチーフであることがうまく採り入れられたデザインでしたし。あと、ドンモモの必殺技も良かった。戦隊は1つ1つの技をしっかり見せてくれるから、それぞれが印象に残って良いですね。

⑥まとめ
と、取り留めもなく思ったことを書いてきましたが、まぁ、「本当大好きでした。ありがとうございます」しか言うことがありません。しばらくロスがひどそうですが、とりあえずドンブラの皆がバトンを繋いだキングオージャーをしっかり観て、ドンブラの皆を、戻ればいつでも幸せな思い出に浸れる場所として心に留めておこうとおもいます。ここまで読んでくださった方がいれば、ありがとうございました。
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