ゴトウ

暴太郎戦隊ドンブラザーズのゴトウのレビュー・感想・評価

暴太郎戦隊ドンブラザーズ(2022年製作のドラマ)
5.0
繰り返される「お前とも縁ができた」というセリフの通り、ハチャメチャハイテンション展開で包まれて繰り返されるのは交わらなかった者同士が交わるなにかの縁、アクシデント的につながる関係性の尊さというわりに繊細なメッセージだったようにも思う。従来の戦隊ヒーローからすれば異形の頭身は、前作『ゼンカイジャー』から連なる「戦隊」再定義でもあるとともに(つまり平成ライダー前期の「ライダー」再定義と同じで、こういう仕事にかけて白倉伸一郎がすごすぎるのかもしれない。で、マスターって何者だったの?)流行のワードでいえば「多様性」というか、各々が「悪の怪人」への対処とは無関係な各々の難題を抱えて生きていることが大前提のドラマにもなっている。いかなる事態でも怪人への対処を最優先するヒーローの義務的な面は桃井タロウが担うことでギリ戦隊ヒーローの体裁は保たれている(?)バランスがありつつ、桃井タロウもきっちりキャラ立ちしているので物語を転がす要員になっているわけでもない。多人数ヒーロー、最終回のオチまで含めて『リバイス』と被っていた部分も多かったけれど、「こいつならこうするだろう」の安心感、話の都合で動かされている感がない…というか、何が起きても不思議はないので話の都合など関係ないくらいのキャラクターの魅力が違っていたのではないでしょうか。放置された伏線とか、結局明かされなかった謎とか、そんなのどうでもよくなるくらいのハイテンションでした。

戦隊ヒーローの戦いはある面では「仕事」といえるわけで、宇宙警察であったり宇宙海賊であったり、あるいは魔法使いの一族とか、戦い以外での連帯を保証する設定が付け加えられている場合も少なくない。ドンブラザーズはわけもわからぬまま自動で変身させられる一般人であって、選ばれてはいるけれども「選ばれし者」ということではなく、自分の意志で辞めることすらできる(!)。抜けようと思えば抜けることが可能なコミュニティのあり方とか、過去の戦隊への変身や異形の頭身など変幻自在な姿形の「アバターチェンジ」とか、多分に今の時代への意識もあるはず。それを通して描かれるのは連帯の脆弱さではなく、むしろ無限の拡張性。桃太郎のお供に鬼がいるという5人の構成からして特殊で、それはやはり「あちら/こちら」の分断に対するカウンターのようでもある。一応「敵の幹部」として現れた脳人たち含め、最後は総勢11人全員が「ドンブラザーズ」として名乗りを上げるシーンは、今まで見てきた戦隊ヒーローの名乗りで一番感動的だったかもしれない。ただ名乗っただけで涙が止まらん。ヒトツ鬼にしても殺害するのではなく、脳人が消滅させた人物たちも帰ってきたり、おそらくはかなり意識的に追放、削除をしない形での問題解決が目指されていたはず。そうしたタロウたちのあり方は、「仕事でなければ関わりたくない」と互いに眉をひそめ合いながら下位の存在である人間を遊び半分に消滅させていくソノシ・ソノゴ・ソノロクや、彼らの話を「続けて続けて」「気にしないでいいから」と初めから聞こうとすらせず、目標未達を理由に処刑するソノナ・ソノヤとは対照的。「得にならない」という論理で関係性を消去していく脳人たちの姿は、残念ながらドンブラザーズのような人間関係よりも見覚えがある。怪人とそれを殺害するヒーローという展開の問い直し、こういうのに弱い。ちゃんと今やる意味があるものになっているしね。

別の場所での自分、別人格としての自分というものに対しての暖かな目線も印象的で、自分であって自分でない人格だったみほとしての人生を選ぶ夏美や、二つの人格を持ち、かつイマジナリーフレンドを心の支えにしていたジロウらの生き方も、それはそれで否定されない。ムラサメやジロウはそれぞれ内なる自分と「二人で」生き方を選んでいくし、夏美のように別人としての自分の振る舞いの方に心惹かれるならそちらを選んで生きていくこともできる。一年間、夏美を救おうと戦い続けた翼があっさりと彼女に突き放される展開は予想を裏切るエキサイティングなものだったし、ドンブラザーズになるまでは関わるはずもなかったであろうソノニと共に逃亡を続ける(それでいいのか?)ことになるというのも「縁」でしょう。悪の幹部だから、ヒーローだから、ということではなく、他者との関わりのなかで自分の生き方を選択していく。根が優しい善人であっても、雉野のように怒りや嫉妬に任せて行動してしまうことだってあるでしょう。自分の思いが届かなかったことで生きる希望を失いかけながらも、みほ以外の人間とも強い繋がりを持てていたことに気づいた雉野は、愛する人を自分から奪った男であるイヌブラザーと連携して戦う!体型がおよそ人型ではない激細足長ピンクの背中に、子供くらい小さいブラックが乗っているという絵面なのに、もうどうしようもないくらい泣けてくる!ドンブラザーズは仕事だから一緒にいるんじゃないよな。信頼しあってる仲間だから一緒に戦うんだもんな……!

あらゆる「縁」の中心にいたタロウがその記憶を失う展開、一年間観てきた物語はタロウに記憶を取り戻させるためのマンガのストーリーであった(ソノザみたいにマンガから人の心を学ぶことだってあっていいよね)というどんでん返しを経て、忘れてしまっても、もう会えなくなっても、生きてさえいればまた新たに「縁」を結ぶことができるのだと、だから生きていこうという物語だと僕は受け取りました。「縁」を結んで大団「円」、後半は毎週泣いていました。一年間ありがとうございました。
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