ひば

悪の心を読む者たちのひばのレビュー・感想・評価

悪の心を読む者たち(2022年製作のドラマ)
5.0
最近一番のめり込んだ作品。化物は生まれるのか、作られるのか。現実に起きた凄惨なフェミサイド(『チェイサー』などで実写化済)と韓国初のプロファイラーの草の根物語。「夜道でランプを持つ目の見えない人に、なぜランプを?と尋ねた。この明かりは道行く人が転ばぬためだ、と答えた。そんな心構えで望まないと耐え難い仕事です」という台詞がキーとなっているだけになんかほんとに泣いちゃいそうだった、行動の柱に道徳がある…。根深い家父長制、憎悪の受け皿となる弱者、制裁の役割を担う刑務所を含めた社会システム、被害者が消え犯罪者の名前だけが膨らみ続ける報道。彼らの本職は事が起きた後にあたり、犯罪者を裁くこともない。やってることは傾向と対策だから。椅子に固定され感情を表に出さず古今東西悪人の津々浦々を聞き堪え忍び続ける元の木阿弥役でベストアクト賞をとる男キムナムギル、わたしたちも聞かされるけどもうやめて彼が壊れちゃうと自分そっちのけでキムナムギルにも不安な気持ちを抱くので視聴者の負担が大きすぎる(とはいえ一番心労を負ったのは犯人役の俳優たちで間違いない)。とにかく自分の好きなことを話したい最悪のオタクみたいな奴が最悪だった。やつれたキムナムギルもう見なくて済むと別の安心感あったもんな最終話。『ワンデイ』と『殺人者の記憶法』のハイブリッドって感じ。チョンマンシクと並ぶと『ハント』になる。最後に『殺人の追憶』の事件への言及も。
でもこの物語の魅力はチンソンギュが担ってるんだよね。キムナムギルがどれだけチンソンギュに救われてるかって話だから…朝の夢みたいな存在。射止めた妻子羨ましすぎ。キムナムギルからチンソンギュへの湿っぽい視線にドキドキしていると次第にチンソンギュからキムナムギルへの鼓動を表す視線に協調していく。病院のエレベーターのシーンとかどんな目で見ろっていうんじゃ。凶悪シーンと悶え良良シーンを交互にやるから健康に悪いサウナと同じ。嫌な汗かいてじんわり心を煮詰められ着替える早春。キムナムギル…男男関連強すぎない…?いや性別関わらずロマンスのアトモスフィアで巻くのがうますぎる…?人には自分を無条件に受け入れてくれる盾があるかどうか、それとも自分を理不尽に傷付ける矛があるかどうか、どっちがより影響するのだろうか…
しかし一つ問題をあげるなら、ほんとうにこれだけの描写が必要だったのかは疑問だ。同時期イランで起きた連続娼婦殺害事件を描いた『聖地には蜘蛛が巣を張る』を思い出した。この映画は女性を殺害していく様子を長く直接的に描写しておりかなり心労なのだが、この描写によって犯人が今後どうなるかを対に表したかったのではと解釈している。そもそも『悪の心を読む者たち』は犯罪者の罪を問う趣旨ではないため相応の罰を見せろとは言わないが(また溜飲を下げるつくりが正しいとも言わない)、結局センシティブな刺激で人を絡めとるつくりとは一線を画さねばならないはずという主張と合わない。俯瞰して見れば男同士が仲を深めるために犠牲になる女像はいつものやつと変わらないのでは。近年のメディアの扱い方から外れていると感じた。作品内で男も女もホモソーシャルに染まるなの姿勢はこんなにも微細に敷き詰められているのに。コロナ対策したわよとか人動物含む過激描写や光の点滅に気をつけてなどテロップが多々ある配慮は良いと思う。犯人の可哀想な生い立ちもふむふむメモメモしとく情報への変換のみで心のケアはしないとこも良い。あと心のこと마음っていうの響きがすき。それいいんか?って思うとこは多いけど納得より直感的にすきだなの気持ちが大きいので★5にしました。アレクサンドルロトチェンコの『階段』という作品が韓国ポスターのオマージュなのかな。


~すきshipメモ~
ハヨン/ヨンス
気になりすぎて放送時間をドキドキしながら待ってた、ハヨンが実直さから突然照れくささに車線変更するタイプなの誰も知らん、わたしは二人のシーンぜんぶラブシーンと呼んでいます。最初の「後悔しません」から「何度でもお前を選ぶよ」まで繋がってたんだな感慨深いです。苦しめてるのはわかってるがどうしても手放せないヨンス…人生を伴走するパートナーだから…ヨンスの数多の口説き文句(本人が"説得"の認識しか持ってなさそうなとこも良い)や何回やるんだナチュラルあーんも良いですがアイス食べ歩き捜査やコスモスの背後で二人が車に座って乳酸飲料?飲んでるシーンが印象的です。ハヨンが自己顕示欲丸出しの犯人に「お前のことはどうでもいい」と言う度にヨンスの存在が輝く。ヨンスのことが好きでたまらんハヨンの顔映した直後家族にラブ電話するヨンスのシーンに移るのすごすぎて鳴いちゃったな。最初のハヨン「あなたがいればいい」が→ヨンス「俺だけ見てちゃだめだぞ」に繋がるの、もはやあれっ…関係が0からスタートじゃないんだな?と狼狽えて始まるのにビックリしてる場合じゃねえんだ。だからこそ病院であのヨンスが目そらし始めちゃうとこ良いよね…病院のシーンすべてがすごいよな恋のシークエンスじゃんあれ。ハヨンの息吹がヨンスの頬を撫でていくエレベーターシーン…わたしの中でイメソンはNew Jeans「Ditto」

ハヨン/ヨンス/ウジュ
製作陣の男同士絶対に傷付けあわせんぞという意気込みがすごいよな、それぞれの絹を丁寧に織り込んでいる…ひょうきん帽子誕生日プレゼント交換をねじこんでくるぞ。ハヨンが「ウジュが自分のジョークに笑うのはウジュが喜んでいる(=私のことが好きな)だけです」って言ったあれは、ハヨンとウジュのヨンスへの表情そのものですってコメント見てひぃなっちゃった。そういえば性格的には使わんが方法としては使う"タメ口"に一番ドキッとしたかもしれない怖いよね

ヨンス/ギルピョ隊長
後輩と先輩。一番関係が深い間柄にはいつまでも心に子供が残るんだなって思う。先輩を顎で使ってて良いし先輩がさらに上に頭下げて必死に0歳チームを守っててすごい。「人は一度逃げても戻ってこられる、だが逃げたいと思ったことのない二人が一緒にいたのに相棒が倒れたら?二人ともあきらめる気がする」って話よかった

テグ刑事/ハヨン
互いに思うことはあるが言わなかった、飲み込んだ言葉で対話する高度なテクをもっているので想像の余地デカですき。多分どっちも笑った方が素敵って言わんけど内心であたためてる。ちなみに俳優たちは『非常宣言』にて上空に舞台を移し共に戦っている

テグ刑事/ナム刑事
女性上司と部下。ユンテグ氏を尊敬してるから同調して言動も引っ張られてんのかな思ったけど元々善の伸び代大コンビなんだよなという。韓国のチーム長に悪い人いない
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