なっこ

風起花抄(ふうきかしょう)~宮廷に咲く琉璃色の恋~のなっこのレビュー・感想・評価

3.2
人気小説「大唐明月」が原作の「風起花抄」。舞台は国際色豊かな唐代。男装の麗人でもあるヒロインが訳あって宮中で育ったため、宮中と庶民の生活、男性として仕官するさまと女性として生きる姿のどちらの視点も堪能できる。

チャンネル銀河の番組紹介やコラムが秀逸でこちらの解説で視聴を決めた、王道の歴史ロマンス、見て損はないと思う。1話目は現在YouTubeでも公開されている。

特に衣装が素晴らしい。ヒロインが刺繍の大家である母親から受け継いだ技術を伝えるために彼女の作り出す衣以外も、それぞれの役者さんが身に付ける衣装がとても美しく鮮やか。

そして私は明君好きなので、賢く情に厚い皇太子が出てくるところも好き。

娘のために自らを犠牲にした母親は、娘が敵を恨むことなく宮中外で平凡に自由に生きることを望んだ。しかし娘は、宮中で生きることを選ぶ、復讐のために。そんなヒロインにはもちろん色んな難がふりかかる、次から次へと。けれど、それを乗り越え成長していく過程が良い。無鉄砲で無知で感情が先に立つ彼女が、ただ純粋に正しいと思うことや自分の良心に従って行動する姿は、これが子どもの頃に思い描いた人としての正しい生き方だったなと思い知らされた。もちろん天は彼女に味方する、ヒロインなので。窮地に陥っても悪人に罠を仕掛けられてもなんとか知恵を絞って解決策を見出していく。

悪人が意外とコミカルというか、人間らしく迷いのある人物であるところが良いなと思った。根っからの悪人は出てこない。皆それぞれに何か目的なり理由なりがあって悪の道を選ぶ。

そう、本当は彼らもどこかで引き返せたのではないか、と思わせてくれるところがこの物語の優しいところだと思った。

華やかな宮中で上り詰めるのではなく、好きな人とただ一緒に生きる、そして同じ志で国の繁栄を願う。民の模範を示している物語なのかもしれない、それでも、悪を滅し良心に従って気持ちよく正しく生きようとする姿は清々しく美しい。婚姻で終わる物語の結びも良き。

(※以下各話視聴時の感想)

#15-22
幼い頃に好んで見ていたテレビアニメのような懐かしさを覚える。それがこの物語のどの部分からやってくる懐かしさなのか、ずっとわからないでいる。
ヒロインを助けてくれる女性が、「これからは女性も自立しないとね」と言い放つほど現代的な価値観がヒロインたちの気質にも反映されているけれど、どこか古く大事な価値観も踏襲されている気がして、それが何なのかずっと気になっている。ここまで見てひとつ言えることは、ぜひこの先を生きる少年少女にこのドラマは見て欲しいな、ということぐらい。

不名誉な死を遂げた母親の名誉を回復したいと願う少女。彼女の持っている気質は母親とは全く違う、でも、母親の生写しではないかと思わせるように重ねて映すこともある。ヒロインはふたりでひとり。トレースしたかのような娘でありながら、母親の限界を娘は乗り越えていく。悲劇はそのハードルを飛び越えていくために予め用意されていた宿命だとも言える。悲劇がなければこれほど強いヒロインは生まれないし、母親はそのための犠牲、または過去に搾取されていた女性たちの象徴とも言えるのかもしれない。

#9-14
“私にできるのはここまでよ”

繰り返されるこのセリフ好き。脇役だけど視聴者の“よくやった!ナイスアシスト!”と言ってやりたくなるほど主役級の働きをしたときに許されるセリフなのかしら。
皇太子が正体を明かして、ようやく主要人物の輪が繋がって、ここまで個別に展開されていたエピソードが全て一つに集約された感じ。
個人的には、命懸けで秘密を守る順子の男気と慈悲深い養父孫氏の生き様が好き。夜の宮中の庭でのシーン。
宮中の池に身投げなんて、きっとどの時代にも起きている誰の記憶にも記録にも残らないような小さなエピソードなんだろう。けれど、彼らだってその時そのときを必死に生きて、自分の仕事をしていただけなんだろう。名も残らないそんな役人に自分のいまが重なって泣けてきた。吹けば飛ぶほどの脇役に過ぎない、私も主役級の誰かの役に立てているだろうか。

#1-6 天下第一針 その称号がもたらすのは恩恵か災厄か

幼いヒロインの親娘の幸せな時間は短く、母親は弟子の策略の失敗によりその命を散らすことになる。才能がありすぎると他人の妬みを買うことになる、殊にこの天下第一針の称号に目のくらんだ弟子の気持ちの強さは恐ろしい。幼いヒロインの命まで取ろうとするその執着にはぞっとする。だからこそ、母の死から11年経ったヒロインが宮中で義父に守られてるのを良いことに奔放な行動に出ようとすると、はらはらするよりもイラッとしてしまう。敵は同じ宮中にいるのに!と。

そして、何かと縁のある男。もう前半から何回も出くわして、ヒロインのピンチを救ってくれるヒーロー。幼い頃から実は出会っていた、という演出は、好きよね、韓国ドラマも中国ドラマも。こんなに縁があるのなら間違いなく天が定めた相手だ、ってことでしょう。

宮廷で刺繍や服作りを行う“尚服局”が舞台の中心であるだけあって、鮮やかな色合いの華麗な衣装とその刺繍を堪能できるのが魅力。
嫉妬されるほどの技を持つ者は、それに相応しく強く賢くなくては生き残れない。大事なのは技術ではなく心。優しすぎれば母のように野心家で心ない弟子に貶められる。一芸で生きていくのも難しい。でも母から受け継いだ針の技術ひとつで味方を増やしながら、母の名誉回復のために奮闘するヒロインは、思わず応援したくなる魅力がある。宮中を出たヒロインは叔父の店で絵師として働く。お客の注文を受けて、彼女がどんな衣装を作るのか楽しみ。
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