タケオ

HOMELAND/ホームランド シーズン1のタケオのレビュー・感想・評価

3.9
 イスラエルのテレビドラマ『プリズナーズ・オブ・ウォー(原題:חטופים)』のリメイクとして制作された、「9.11」以降のアメリカ合衆国とテロリストの戦いを描く社会派サスペンスドラマ『HOMELAND/ホームランド』。そのシーズン1は、戦争捕虜として8年間テロリストの「アルカーイダ」に拘束されていた海兵隊軍曹ニコラス・ブロディ(ダミアン・ルイス)が救出される場面から幕をあける。
 ブロディは「戦争の英雄」としてアメリカに帰還するが、ただ1人、彼に疑いの眼差しを向けている人物がいた。CIAの作戦担当官キャリー・マティソン(クレア・デインズ)である。キャリーはイラクの内通者から「ある戦争捕虜がアルカーイダに転向した」という情報を受け取っており、ブロディこそがその「転向した戦争捕虜」だと確信していたのだ。キャリーはCIA中東局の局長ソール・ベレンソン(マンディ・パティンキン)に協力を仰ぎ、ブロディが「転向者」である証拠を見つけ出そうとする。一方その頃水面下では、アメリカ国内での第2のテロ攻撃の準備が着々と進められていた——。
 あまりにも優秀であるがゆえに、側からはキャリーの行動が'イカれているようにしか見えない'のが、本シリーズの大きな特徴の1つだ。キャリーは極めて有能なエージェントではあるが「双極性障害」を患っており、クレア・デインズのヒステリック気味の演技とも相まって、「彼女の推理をどこまで信じていいのか?」と常に鑑賞者を不安にさせる。
 キャリーが「双極性障害」を患っているという設定は、実は当初から脚本に含まれていたものではなく、クレア・デインズ自身が提案し採用されたもの。キャリー自身が「信用できない語り手」となることで、ただでさえ緊張感に満ちた物語に更なるスリルをもたらす効果的な改変点だといえるだろう。キャリーが「双極性障害」であることに付け込み、彼女自身の信憑性を貶めようとする登場人物が続々と現れるのだから恐ろしい。幾重にも仕掛けられた罠、そしてガスライティング。目まぐるしく戦局が変化していく中で、キャリーは終始翻弄され続ける。
 先にキャリーが'イカれているようにしか見えない'と書いたが、彼女は決してイカれているわけではない。彼女は誰よりもマトモな存在だ。次から次へと非人間的な決断が下されていく中で、キャリーだけが人間的な反応を見せる場面が多々あることからも、むしろ彼女がマトモすぎる存在だということがよく分かる。では、何故キャリーは'イカれているようにしか見えない'のだろうか?
 それは端的にいって、アメリカ合衆国とテロリストの戦いという状況自体があまりにもイカれすぎているからだ。「自らこそが正義だ」「先にやったのは向こうだ」と主張する者たちの、終わりなき報復に次ぐ報復合戦。自らの「正義」を証明するためにならどこまでも残虐な所業に手を染められるという一点に置いて、アメリカ合衆国もテロリストも大差はないと、『HOMELAND/ホームランド』は断言する。狂気の世界で正気を保つ人間は、側から見ればイカれているようにしか見えない——というパラドックスを、キャリーは体現している。もちろんこのパラドックスは、鑑賞者1人1人に突きつけられた問いでもある。今、祖国(ホームランド)は狂気の中にあるのだろうか?「正義」と「大義」を失い迷走するアメリカの姿を、『HOMELAND/ホームランド』はどこまでも鋭く突きつけるのである。
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