なっこ

個人差ありますのなっこのレビュー・感想・評価

個人差あります(2022年製作のドラマ)
3.2
私は、このドラマを性教育の教材にしても良いくらいだと思ってる。そのくらい、多様な性を生きている人が登場するお話だった。

主人公が異性化することによってそれまでの夫婦の関係性が変わってくる。今まで特に問題視してこなかったことが改めて、ジェンダーや固定概念にとらわれて、本当の自分に素直になれていなかったことに、どちらも気が付いていく。
異性化という状況が夫婦の関係性を見つめ直すきっかけとなっている。

自分自身の身体的な性別を受け入れて生きている多くの人は、きっと異性化によってそれまでの自分と決別する訳だから、戸惑いは大きいだろうし、周囲の人も簡単には受け入れられない。でも、そういう状況がかえって性別によっていろんな決め付けをしていた自分自身の在り方を見つめるきっかけともなるのかもしれない。この夫婦はとても積極的にそして前向きに異性化と向き合っていて、家族も夫の職場も比較的素直にこの状況を受け入れている。

ヒロインは小説家という自身の職業の性質からか、とても冷静にそして理知的にこの事実を受け入れ適応していこうとする。そして、自分の感情の変化、これから必要となっていく価値観を受け入れていこうと、必死に試行錯誤する。その積極的な姿勢がとても素敵だった。そして、時に辛辣な指摘もしながら、彼女に必要な友人を紹介したり、話を聞いて寄り添ってくれる編集者の一貫した姿勢が、この物語を迷子にしない要のような存在になっていたようにも思う。彼女はとても優秀な編者者なんだろうな。

そして、異性化があるからこそ起こるリバースという現象。これが性交渉をきっかけに起こるということまでは分かっているが、必ずしも毎回起こる訳ではないため、さらに混乱を招く。個人的には、それは行為よりも感情の方が大事な気がする。需要と供給という言葉が出てきていたけれど、身体と心で相手を受け入れる、と同時にその性別での自分の心と身体を受け入れてた上での行為でなければリバースは起きないのかな、と。でも、それは神のみぞ知る領域で、この物語を生み出した作者にしか分からない部分。とても面白い設定であり、これがあることでまた物語が飛躍した気がする。それが、これまで通りの夫婦イコール性的なパートナーである、という事実を揺さぶってくる訳だから。

異性化を経て夫婦はもう一度出会い直す。彼等が新しく出会う人物も魅力的だった。妻は女装家のスミレさん、夫は同じく異性化した横山と出会い、親しくなる。その経験がなければ出逢えなかった人たち。スミレさんがとても魅力的で、演じる上ではとても難しかったと思われるけれども、視聴者としてこんなに上手く騙されたことはなくて、本当に役者さんと彼を作り込んだ人たちの勝利だなと思う。女装家としての彼の生き方、そして一歩引いて周りの人たちを支える側にまわれる彼の人柄にとても惹きつけられた。物語を引っ掻き回そうとすればいくらでも出来た立ち位置。最終回も絶妙なタイミングに現れるし、こんな風に気遣いのできるキャラクターはなかなか生まれない。中年の生き方の模範としたいと思う。横山くんは、女の子が演っている時点から男の子だったらどんな容姿だろうかと想像していた、その予想を裏切らない容姿で登場してくれて個人的にはとても嬉しかった。夫しても横山にしても、ひとりの人物をふたりで演じるというのは、とても難しかったと思う、でもどちらも見ていて違和感は感じなかった。

身体の性と心の性、同性愛と異性愛、性表現、ジェンダー、言葉の一つ一つは理解していても、いざそのことに悩んだり、その人に出会って関わるまでは、なかなか見えてこない問題。けれど、大多数のフツーを生きていると思っている人が一人ひとり違うように、それぞれの当事者にも個人差がある。こちら側とあちら側。線を引くのではなく、自分には関係ない、と思うのではなく、明日出会う人が、そうかもしれない。明日新たな自分に出会って自分もそちらへ一歩踏み出すのかもしれない。そんな風に考えてみたら良いのではないかと思った。

100人いたら100通りの自分のパレットを作る

夫が同僚と作った新商品のように、自分の人生をアレンジできるのは自分だけ。自分も含めて誰もがなりたい自分を生きられるようにと願う。
なっこ

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