Masato

一流シェフのファミリーレストラン シーズン1のMasatoのレビュー・感想・評価

4.1

アメリカで今話題になっている海外ドラマということで気になって鑑賞。

邦題は「シェフ」みたいなほのぼのグルメ映画の雰囲気があるが、実際はサフディーの「アンカットダイアモンド」、チャゼルの「セッション」のような、まるでボクシングをしているかのような会話劇が忙しない演出で繰り広げられる恐怖の料理ドラマ。

まるで連携の取れていない明らかに荒っぽそうなシェフたちがFワードを連呼しまくって罵詈雑言を浴びせ合いながら、死ぬほど美味そうな料理を衛生管理無視のキッチンで作るという凄まじいシーンが初っ端から出てくる。すぐさま「セッション」を思い出す狂気の世界に入り込んでしまったかのような孤立感。

ベター・コール・ソウルを見たあとだから、とにかくハイテンポでカメラがグワングワン動いてセリフがマシンガンのようにやってくるこの毎フレームの情報量の多さに置いてけぼりを食らった。最初こそそれにやられるが、何話か見て慣れてくるとちょうどいい具合に噛み砕けるようになって良くなる。

みんなが絶賛する7話は、セッションでいうラストのジャズシーンに相当する究極のワンカット約15分間を体感できる。いままでの調理場の熱量を更に燃やしカオスと化した状況は劇薬すぎる。ガンギマリのシドニーが面白すぎる。

料理シーンの勢いの凄まじさもさることながら、ドラマ部分も良い感じ。ちゃんと描くところは丁寧に描く。正直に主張すれば考えてくれるし、溝があっても誠実に向き合えば打ち解けられるし、なにより美味ければマブダチ〜みたいなそんな単純な感情がわかりやすいし、それでいて意外とリアル。とっかかりを除くのはあまりにも純粋でシンプルなものだったりする。まあ、リッチーに関しては知能指数低すぎてヤバいし、カーミーも私生活破綻系の天才。真面目なシドニーがかわいそうすぎる。

バカばっかしだけど、最終的にそれが愛おしくなる。最終話、いままでの伏線を回収しまくるのが素晴らしい。そしてカーミーが兄貴のマイケルのことを思い耽る瞬間、凄い。

本作や「トップガンM」などの話題作を見て真理がよく分かる。シンプルでストレートな心情描写をいかに上手く面白く上質に見せるかというところを出来ているのが広く話題になるものなのだろうと感じさせられた。こねくり回して複雑な心情を描くのも面白いけどね。

そんなこんなでこんなイカれた世界最悪だわと、とっつきにくく見てたら段々と魅了されて飛び込んでみたくも思えてきてしまう。セッション、宮本から君へ、神は見返りを求めるなどみたいに、どう考えても最悪な環境なのに、惹かれてしまう奇妙さが溢れ出ている。

世界観も良き。ヒロ・ムライがプロデュースしているということで、圧倒的なアメリカのストリート感が汚いかつオシャレ。このジャンキーな文化を上品に絡めているのが良いね。音楽との相性もバッチリでいかにもアメリカのアーバンカルチャーらしいドラマ。シカゴへの敬愛も含まれている。
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