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エルピス—希望、あるいは災い—のtntnのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

面白かった。日本のドラマをしっかりと追いかけていないのではっきりとはわからないけど、作り手の本腰の入れ具合がビシビシと伝わってくる。
求心力と停滞(というか衝撃的な後悔と絶望)の緩急でジェットコースターのように展開される脚本は言わずもがなだけど、個人的にはこんなに生き生きとしている俳優陣を見れたのが良かった。優しさとやさぐれと情けなさの詰まった眞栄田郷敦には毎回圧倒された。彼が、徐々に相手の話を聞き、相手に話をできる人間になっていく過程に感動した。
脇役までちゃんと演出が行き届いていて、最終回に今までの登場人物が次々と出てきても全員生きた人間として思い出せる。
あえて言うとしたら、コレステロールに例えられる「善玉と悪玉」の結論は少し引っかかる。確かに、ハラスメントまみれの村井さんが報道人として一番誠実だったりと、一人の人間を白黒分けることはできないし、そういう人たちが集まる組織も一枚岩ではない。この人なら自分の思いを打ち明けられるって互いに信頼し合えることも希望となる。
でも悪い人や組織はいなくても悪い状況ってのはあるわけで、個人のしぶとい強さや信頼感情など、「個人」単位の結論に落ち着いてしまうのが残念ではあった。自分という個人をしっかり保てなかったり信用できない人もいるし、そういう人だって悪い社会には怒っていいはず。うまくまとめられないけど、個人の思いや生き方の話は前提ではあっても、そこから社会全体の構造に立ち向かう姿勢も描いていいのかなと思った。村井さんへの尊敬と、ハラスメントが残存する社会への怒りって両立できるしょ。善人も悪人もいないってことを強調しすぎると、結局「どっちもどっち」的な安易な相対主義に陥る危険性もあるし。そう思う原因の一つには、今高島鈴の本を読んでいて、競争社会や資本主義への嫌悪が溜まっているのはあるかもしれん。その意味で、高学歴・高収入・男性という特権を得ていた眞栄田郷敦が、それを次々と捨てて、社会が見ようとしない環境で暮らしている人たちと出会い話し合っていく展開はとても良かった。
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