kecoji

エルピス—希望、あるいは災い—のkecojiのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

渡辺あやは反権力の作家だ。この作品では、強大な権力を弱きものがじゃあどうやって倒すのかというところまで踏み込んでいて素晴らしい。

あの同期のディレクターが、金のために、岸本の掴んだ真実をネットに持ち込もうとするあのシーン、最初は何のためにあるのかと思った。しかし、あのシーンがあることで、浅川が最後に大門のレイプもみ消しのネタをあの俗物に事前に話し、それによって斉藤をわざと呼び出したことがわかる。
そこがあやふやだと、浅川が斉藤(大門]に妥協させられたように見えるが、それは完全に逆で、完璧に権力側を脅し切って、えん罪事件の真相の放送を勝ち取ったことがわかる。
当然、浅川には斉藤の言葉が自らの保身のための詭弁であると分かっている。
もちろん、斉藤が来なくても、交渉が決裂しても、覚悟は決まりまくってるのでレイプもみ消しを放送するだけなので、その後がどうなるかは知らんが、どっちに転ぼうと勝ちなのだ。
弱きものが権力に勝つためには、捨て身だが強力なネタを相手の喉元に突きつけて、現実的なだが困難な真実を掴み取れということで、全然スッキリしないが、本当にやるならこれしかないなという回答だった。

現実的なように見えてファンタジックなのに現実的という強度の高いドラマだった。

浅川も岸本も村井もその存在や覚悟がずっと揺らぎ続けるのがいい。どの存在にも完全に共感をさせることを拒んでいるようで、でも魅力的であり、それが人間なのだとか思わされる。
連続ドラマであるからこそ、その揺らぎをうまく表現できていると感じる。

弁護士を演じる六角精児と新聞記者を演じる池津祥子がすごい。
ほかの役よりも飛び抜けて個性的なのに、最も実在感があり、物語り全体のリアリティと面白さを確実に高めている。
kecoji

kecoji