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九齢公主~隠された真実~のなっこのレビュー・感想・評価

九齢公主~隠された真実~(2021年製作のドラマ)
3.1
中国時代劇ドラマのヒロインの魅力は芯が強いところ、一度決めたら変えない強さ、そして降りかかる難が国家レベルで大きく多いところ

ほぼ踏んだり蹴ったりの内容なのに何故か見続けてしまう魔の魅力

今のところ一番好きなヒロインは『鶴唳華亭』の陸文昔だが、九齢公主も負けてない。

冒頭亡き父親の仇を討つために新帝暗殺を目論むがあっさり失敗。その無鉄砲さはどこへやら、顔を変えた彼女は全くの別人となる。フエィスオフじゃあるまいし、どう考えても顔を他人に作り変えるなんてそんな魔術はこの時代には不可能だ、とは思うけれど、ここはそういうお話なのでスルー。彼女の身代わりとなって死ぬ君蓁蓁、その炎に包まれていく姿の美しさには息を呑んだ、彼女こそが真のヒロインだと感じた。そのシーンを美しく見せたのは、その後ヒロインがこの姿に成り代わるためだったのかもしれない。

このもうひとりのヒロインの献身的な犠牲が物語の根底にあることが最初から少し気にかかってはいた。しかしこれは生まれ変わりのように、影となって日向のもうひとつの生を一緒に生きるようなものだと良い方に解釈することにした。

ヒロインは君蓁蓁としての自らの姿形も大事にしている、かつての楚九齢としての自分の容貌に未練のある様子は全く見せない。見た目の通り君蓁蓁として親戚に尽くし、医師として働きもする。

新たな名を得て生き直す、これはもしかしたら女性の人生の密かな望みでもあるのかもしれない。

そしていつ修練したのか知らないが彼女の医術は超一流。次第に神医と崇められる。その名声を武器に朝廷へも出入りできるほどの身分となりやがて見事な政治力も発揮していく。戦うヒロインだが、武術は全く出来ない。しかし碁を嗜むことから、情勢を読み戦略を立てるのが上手い。朝廷の人間関係、利害関係も深く知っている。流石は元公主。

彼女はこの物語を進んでいく中で二度婚姻を結ぶ、どちらも本意ではないが。そして、4人の男たちに愛される。彼女の心の中にいる人は一人きりだが、見てる側は、さあその中の誰が一番魅力的か、そういう視点でも楽しめる。
私は断然君蓁蓁の元許婚・寧雲釗、彼一択。ヒロインが、身代わりとなった蓁蓁を思い出しながら彼女がこの人に嫁いでいたら…という目で見つめるところもなかなか切ない。ほんと、素敵な人なのよ、好きにならなくても親友には絶対薦めたい、というような。演じている彼は、他のドラマで放蕩息子の武人役でかなり粗野なイメージの役柄だったので、しっとりした文人役に最初はびっくりしたけれど。その瞳からスッと涙が零れても真っ直ぐ自分の気持ちをヒロインに伝えるシーンは、本当に素晴らしくて、愛のシーンをこんな風に心で演じるのだなあと感じ入った。

もちろん彼女と長く一緒に行動する成国公の世子・朱瓚もなかなか素敵。気がつけば彼の出演作を見るのはこれが3つ目。オープニングの映像にも含まれている、肌を焼いて死ぬことになったヒロインを思って咽び泣き、蝋燭の火と戯れているシーンは官能的ですらある。アクションが素晴らしい俳優さんだが、繊細な心を表現する素敵な俳優さんになったなあという印象。

彼がヒロインに囁く愛の言葉がとても素敵で、戦うヒロインに贈る言葉選手権があるとしたら、私の中では有川浩の作中のセリフを飛び越えて、今第1位。

関わった男性全てを魅力するが、彼ら全てを成長させるだけの懐の深さ、器の大きさがあるヒロイン。終わってみると彼女が関わって不幸になったのは最初に犠牲となった君親娘だけだった。そして血みどろの復讐劇とは、ならなかったラストのまとめ方もスッとして心地良い。最初の無謀な企みと比較すれば、これだけ時間をかけ、長い道のりだったけど尊い犠牲を払っただけある納得のラストだった。

聡明でモテモテのヒロインがお好みの方にはおすすめのドラマ。日本版は多分端折ってくれてるけど、40話という長さに耐えられるならば。
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