なっこ

鶴唳華亭〜Legend of Love〜のなっこのレビュー・感想・評価

鶴唳華亭〜Legend of Love〜(2019年製作のドラマ)
3.3
あらすじ
*チャンネル銀河特設サイトみどころより抜粋

政略結婚の末に生まれた南斉国の皇太子・蕭定権(しょうていけん)は幼い頃に母を亡くし、皇帝である父からの寵愛を受けることなく育つ。彼の味方は母方の伯父・顧思林(こしりん)とその息子の顧逢恩(こほうおん)、そして幼少からの師である蘆世瑜(ろせいゆ)と、ごくわずか。一方、皇帝と寵姫・趙(ちょう)貴妃の間に生まれた兄の蕭定棠(しょうていとう)は甘やかされて育ち、皇太子の座を虎視眈々と狙っていた。
そんな折、3年に1度の科挙の時期がやってくる。蕭定棠の仕掛けた罠に陥る蕭定権だったが、その一件を通じて蘆世瑜の弟子の娘・陸文昔(りくぶんせき)と出会う。彼女は、蘆世瑜が蕭定権の妃候補にと考えていた相手であった。笠の薄布越しで互いの顔が見えずとも惹かれ合う蕭定権と陸文昔。しかし蕭定権は彼女と彼女の家族を守るため、別の妃を娶る選択をする。陸文昔は罪を着せられた父と兄を救うため、また蕭定権の側で彼を支えるため、皇太子妃の侍女として宮中に潜り込むことに成功。彼女の聡明さもあって、蕭定権との間に信頼関係が築かれていくのだが…。

感想

互いに好意をもっていて上手くいけば嫁げるはずだった相手。でもヒロインはただ高貴な人だからと惹かれた訳ではない、彼の人柄、行動、生き方に惹かれたのだと、そのたったひとつの真実を60話かけて見せてくれるロマンチックな作品。

ほんとうの名前を明かせないからこそ起こるすれ違い、いろんな遠回り、何度も命が危うくなるヒロイン。その度にもちろんヒーローに救われるが…。時間にしては多分、秋から冬にかけての三か月か半年くらいなのだろうか…セリフを追うのに必死で、暦の流れまでには気が回らなかった。60話と聞くと怯みそうだが、感覚としてはもっと短く感じた。最後まで全く飽きさせない。

ロマンスが物語の主軸のように見えるかもしれないが、この物語の魅力は、主人公である皇太子の苦悩にある。母を喪い天子である父からは距離を置かれ、恩師も失う、苦難ばかり降りかかるこの主人公を好きになれるかどうかで、見るか見ないかを判断してほしい。伊勢物語の男たちのように泣いてばかりの皇太子。その涙がひたすらに美しい。それを軟弱だと思ってしまえば面白味は半減する。時折見せるなんでもない日常のシーンで無邪気に笑う彼は本当に幼く見える。純真無垢な心のままに朝廷の政治の世界を生き抜かなければならないその過酷さ。朝敵にどんなに酷い目にあわされようとその高潔さを貫くことが唯一の道だと、気が付いたらヒロインと一緒になって熱を込めて応援している自分に気が付いて、ああ天に愛されているこの人が報わなければこの物語が存在する意義なんてないとまで思い始める。

恋の成就よりもヒロインの目線になって彼の忍耐と努力が報われることを一途に願っていく、そういう物語だと思う。そして、父と子。父をどう乗り越えるか、というより、父の期待にどう応えるのか、どう信じてもらうのか、常にそのギリギリでヒリヒリとした状況に身を置き続けなければならない彼に心から同情するとともに、どこか普遍的なものを感じる。父の期待をそのまま素直に信じられない辛さ。なじられれば死にそうなほど辛く、心にこたえてしまうその気持ち。ほんとうによく分かるのだ、平凡を生きている私にも。

私は幸運にも物語の前半でこの皇太子に完全に魅了されまんまと60話完走してしまった。そして彼が、特別な書体を書くその姿が美し過ぎて書道を始めようかなとさえ思ってる。劇中で引用される漢詩も美しい。エンディングテーマは2曲あったがどちらも詩の音の響きが素晴らしかった。日本の古典文学にも多大な影響を与えた中国古典についてもっと知りたくなった。もちろん外伝も見るつもり。
なっこ

なっこ