菅藤浩三

鬼太郎が見た玉砕~水木しげるの戦争~の菅藤浩三のレビュー・感想・評価

4.5
2007年香川照之主演のドラマ。原作はマンガ「総員玉砕せよ!」、ラバウルで水木しげるが自らの体験をモチーフにしており、反戦漫画としても戦前の日本軍の南方でのキチガイぶりを示すにしてもものすごい迫力の作品。泥まみれになりビンタされまくる香川照之たちの熱演が光る。
 塩見三省演じる軍曹が何の理由もなく二等兵の香川照之にしょっちゅうビンタを放つ。食い物がない飲み水がないことがいかに人間にとって苦痛であるかが容赦なく描き出されてる。そして一番クレイジーなのは、玉砕したという司令部に電信が入り司令部は「よし!南方の兵士の指揮があがる」と言ったが、実は一部が勝機ゼロの切り込み作戦は犬死でしかないと岬に撤退していた情報を知り、なんと司令部は「玉砕せずに敵前逃亡するとは皇軍の面汚しだ」と判断して、生き残った部隊の所に参謀の榎木孝明を派遣し彼らにふたたび生存確率ゼロの切り込み作戦を命じるところ、しかも参謀は「私は結果を司令部に報告しなければならないので、お前らを見届ける」と命を犠牲にするその切りこみには参加しないというお粗末。
 なお最初の切り込みで、生存確率が非常に低いのにこの決行を強く主張した支隊長は湊川の戦いにおける楠木正成の天皇に奉じる死に様に心酔して、それを兵士にも上司にも強く言っていた。楠木正成の逸話は戦時中にこういう風に利用されていたことがわかる実例。
菅藤浩三

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