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THE DAYSの青のレビュー・感想・評価

THE DAYS(2023年製作のドラマ)
3.5
以下、各話感想。
1話: これはドキュメンタリーではなく、事実をベースにした物語だと思われる。だから津波による死の描写が、ストーリー上の展開において盛り上げ役を担っていたことは理解できる。ただ、そのような描写を受け入れることに心理的に抵抗があった。今のところ、悪役が分かりやすく悪役しているので、どうなるのか楽しみ。
2話: 「全電源喪失」がいかに未曾有の事態かをゆっくり描いている。暗闇の中、懐中電灯を片手に放射線管理区域内に降りていく演出は、HBOのドラマ『チェルノブイリ』を彷彿とさせた。政府側の人間がやや悪く描かれている。
3話: 悪さをじっとりと描きますね。
4話: 結果的に無駄に高い放射線を浴びることになってしまった職員
5話: 現場で下されるその場その場の判断に、首脳陣の検討が後追いし、現場の判断に修正が迫られる。首脳陣が現場の足を引っ張る構造がよく分かるストーリーになっている。個人的に、現場の炎上ぶりを知らない部外者(自称専門家)が横槍を入れることの悪さを自覚できて、良かった。
6話: 科学に関する技術があれば、数々の知恵を出し合って科学的な問題に対処できる。凄いことだ。しかし、当の問題は、原子力発電および原発の設計ミスいう科学的な技術によって生じたことでもある。また、1~4の原子炉が次々と暴走していくというシナリオは、完全なフィクションであれば、物語としてやり過ぎだと批判されるだろう。段々、このシナリオが現実に起きた事実であることが、信じられなくなってくる。
7話: 「東央電力」や「東首相」など、実在しない固有名を使う一方で、実在した吉田所長役は「吉田」という名前が当てられている。このことへの引っ掛かりは2点。1つは、明らかに菅首相や東京電力への批判を描いておきながら、これはあくまで東首相や東央電力という実在しない人物についての物語なので、菅さんや東電とは関係がないと制作陣が言い逃れができること。もう1つは、吉田さんは既に他界しているので、吉田さんからこの物語を評価することが不可能であるにも関わらず、「吉田所長」という役名が当てられていること。
8話: 現場の人達の善意に任せて、彼らを1ヵ月も酷使し続けたの…?

まとめ
極限的な緊急事態に対して、個人や集団はどのように振る舞えるのか、もしくは振る舞うべきなのかを突きつけてくる作品だった。しばしば、善意に任せることを肯定する場面が描かれていたが、善意を肯定するという結論は、フィクションとしては面白くないし、ドキュメンタリーとしては倫理的に良くないと思われる。
「事実に基づく物語」という体裁のドラマをどのように鑑賞したらよいのかやや混乱した。難しかった。最終話の最後に述べられていたように、3つの資料を元に制作されている。資料のうちの一つが『吉田調書』だからなのか、吉田所長役の名前は「吉田」だ。しかし、ドキュメンタリーや回顧録ではなく、脚色がされているらしい。脚色への配慮か、裁判沙汰になることを回避するためか、政府側や東電本店側の人間には実在しない名前が当てられている。なのに、当時問題になった首相の行動や発言を再現する演出と物語がなされており、このことから政府側と本店側を明確に批判する意図がみえる。つまり事実に基づいて、実在の人物や集団を批判している。だが、あくまでこれはフィクションだという体裁をとっている。だから、フィクションとして単に楽しめば良いのか、社会派ドキュメンタリーとして学習的に観れば良いのか分からず混乱した。
緊急事態時にどのように振る舞うべきかへの答えとして、現場の人々の善意に任せることがある種の美徳として提示されていた。確かに、あの場に残った数十名の善意は素晴らしいし、彼らがいたおかげで今の日本があることは確かだ。しかし、あの場から一刻も早く立ち去りたかった人や、あるいは逃げ出した人がいてもおかしくはない状況だった。そのような人たちを責めることはできないだろう。善意を肯定的に描くことで、そのような本来あったかもしれないはずの人々の心理が封殺されてしまう。また、このドラマによって極限的な状況で自己犠牲とも呼べる善意を発揮することのよさが再生産されており、有事の際に、自己犠牲的な善意が知らずのうちに強制されるということが起きてもおかしくない。
完全なフィクションなのであれば、そのような善意一辺倒な物語は偽善の香りがするため、面白くなくなるだろう。だがこれは完全なフィクションではなく、ほんとうに現場で闘った実在した人物を名指してしまうお話になっている。だから、彼らを悪く描くことはできるはずがない。そのため、善意を肯定する物語にせざるを得なくなる。現にこのドラマを制作できているのも、フクシマ50のおかげなので。
しかし、このドラマが事実に基づいているとはいえ、やはり「物語」なのであれば、善意一辺倒のお話はつまらない。
青