サトタカ

ダーマーのサトタカのネタバレレビュー・内容・結末

ダーマー(2022年製作のドラマ)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

想像以上に抑制の効いた描写、主題がどこにあるのかいまひとつハッキリしない(あえてハッキリさせない)フワッとしたドラマだった。

ジェフリー・ダーマーは、なぜ連続殺人鬼・食人鬼になってしまったのか。
母親が妊娠中に服用していた薬のせいなのか、ゲイというマイノリティだからなのか、親のしつけや教育、米国社会の影響なのか、アルコール依存なのか、ネクロフィリア(死体性愛)なのか…。
もちろん原因がこれらのうちのどれかひとつということはないだろうが、意図的にぼかしているようにも感じた。

ジェフリーの父親が自分にも似た気質があるからかもしれないと嘆くシーンは、このドラマを見ている自分に対しても、彼と似た衝動や絶望、怒り、欲望、全能感を持とうと思ったことはないのか?と問うてくるような気がした。

警察があからさまに黒人やアジア人を下に見てまともに取り合わない差別、被害者への心ない中傷、そしてジェフリー・ダーマーの家族が持たざるを得ない罪悪感などといったさまざまな問題を取り上げているが、それらに対してもどこかフワッとした描写で済ませていた。

卑劣な連続殺人者が洗礼をしてキリスト教の熱心な信者になったら救われるのか?許しを得られるのか?という問いもあいまいなままに終わる。

キラー・クラウンことジョン・ゲイシーは、1994年に薬物注射による死刑が執行されている。ドラマでは安楽死のように死んでいるが、Wikipediaの記載によると20分ほど苦しんで絶命したとのこと。ベンチプレスの鉄棒で撲殺されたジェフリーとのコントラストのためにあのような描写になったのか、やすらかな死への改変理由はわからない。

白人中心の米国社会が、有色人種の若者の失踪事件、黒人女性の通報を軽んじ、10年以上も殺人鬼ジェフリー・ダーマーを野放しにしてしまっていたことは恥ずべきことだ。しかもこれは昔話ではなく、BLMなどで可視化されたように現在にも通じている。

このドラマのフワッとした描写の連続は、短所ではなく長所なのではないかという気がしている。とくに6話以降、話がとっちらかりがちだったが、そのおかげで毎回どんな話になるのか予想がつかなくなり、新鮮味が増したような。それに現実社会って白黒がはっきりしないフワッとしたことの連続だったりするからね。人の「死」以外は。


例えるとルー・リードがパブリック・エネミーとコラボして作った企画物アルバムのような作品だっと感じた。あ、1曲目だけはトーキング・ヘッズの『サイコ・キラー』で。

個人的にはもっと話数を多くしてほしかった。

非常にロックな作品だった。
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