ゴトウ

マスクガールのゴトウのレビュー・感想・評価

マスクガール(2023年製作のドラマ)
3.8
まさしく「ガチャ」で自身の力で変えられない条件による不平等を正当化するのだから、自由恋愛は地獄、家族道徳も地獄。シスターフッドは希望として描かれているかもしれないけれど、「女の敵は女」でもある。性欲まみれの男も論外。親のことなんか嫌いだったけど自分もダメな親になっている。…みたいな葛藤だらけで、どこまで行っても地獄のような話が続く。とても希望が持てる終わりではなかったのだけれど、みんながこれを地獄だと思ってるのならそろそろ限界が近いんじゃないだろうか。もしくは、観終わったらケロッとヘイトを撒き散らし、他人の「努力不足」をあげつらいながら生きていくのだろうか。

「小さい頃からの夢は消えて、平凡な人生を歩むことになった」というモノローグから始まるモミの人生が、平凡とは程遠い波乱に満ちたものになっていく。出てくる人出てくる人耐久力が異常なので、どれだけボコボコにされてもなかなか倒れない(性欲ダメ男はすぐ死ぬ)。執拗なキョンジャの追跡も怖いのだが、後ろから頭ぶん殴って気絶のパターンが何度も繰り返されるのは笑ってしまった。憎い相手のことを思いすぎて、その相手に接近してしまうみたいなことは往々にしてあるし、狂った目的のためではあるにせよ知らなかった世界に踏み出して勉強し、自分の力で邁進する姿勢は力強い。一方、息子のための復讐と口にしながらも、その息子を語る時には相当に美化された思い出が語られている。息子からすれば息苦しかったとしか思えない描写もあり、「貧しい生まれでありながら快活にパワフルに成功を掴んだ」人の孤独と歪みも印象的。覚悟キマりきった怪演が素晴らしかった。

モミはあちこちで親密な関係を築けていたけれど、そのどれもから自ら去っていく。無口かつ心情を語らないようになっていくのだが、命を奪うことに対してどう考えていたのだろうか。モミには整形する前から友達はいたのだけど、大切にできなかった。ミモは友達を大切にできているといいな…と願わざるを得なかった。最後まで明かされなかったけれど、二人のおばあちゃんに見守られて育っていたというのも皮肉な話だった。「みんなに好かれる人になりたい」と語る幼いモミのビデオ。ドラマを観終わった人はいつの間にかモミに肩入れしてしまっていたはずで、全部がぐるっと回ってはじめの場所に戻ってくる構成が綺麗でした。誇りが踏みにじられたときは怒っていいけど、それより近くにいる人のことを大切に…。

一話から想像もつかない話になっていたのですが、こういう大胆なシリーズ構成は一気見前提の配信ならではですね。って別のドラマでも言った気がする。
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