タケオ

FARGO/ファーゴのタケオのレビュー・感想・評価

FARGO/ファーゴ(2014年製作のドラマ)
3.8
 TVドラマ版の『ファーゴ』シーズン1(14年)は映画版『ファーゴ』(96年)の作風にどこまでも忠実でありながらも、「TVドラマシリーズ」ならではの地道な人間ドラマの積み重ねによって、映画版が内包していた「群像劇」としてのポテンシャルを見事に拡大してみせた。ミネソタ州の雪以外には何もない田舎町で作動してしまった「暴力装置」。その理不尽かつ不条理なシステムを前にした時、ちっぽけで無力な人間はただジタバタと右往左往するしかない。それでもなお、なんとかして作動してしまった「暴力装置」から逃れようとする人間たちの滑稽な姿を、本シリーズはどこまでも突き放したタッチで描き出していく。「TVドラマシリーズ」ならではの時間感覚は、そんな乾き切った人間模様を映画版以上に多層的かつ奥行きの感じられるものへと昇華させている。しかし、だからこそ損なわれてしまった魅力もある。TVドラマ版の殺し屋マルヴォ(ビリー・ボブ・ソーントン)というキャラクターは『ノーカントリー』(07年)のアントン・シガー(ハビエル・バルデム)を彷彿とさせるような「超越的な悪」として登場するが、マルヴォのことを「超越的な悪」として描いてしまったがために、映画版にあったような「普遍性」がTVドラマ版では薄れてしまっている。プロでも超越的でもなんでもない「どこにでもいそうな人間たち」が巻き起こす悲喜劇を描いた群像劇だからこそ、映画版『ファーゴ』は他人事として割り切ることのできない遣る瀬無さの残る作品となったのではなかったか。とはいっても、それはあくまで映画版と比較した上での話であり、「TVドラマシリーズ」単体として鑑賞すれば十分に素晴らしい作品である。混沌極まる世界を前にした時、無力でちっぽけな人間はただ静かに肩を寄せ合うしかない。映画版もTVドラマ版も、『ファーゴ』はいずれも同じテーマを語っている。そして、そのテーマは今なお、そしてこの先も古びることはないだろう。
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