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瑠璃も玻璃も照らせば光るのOtoのレビュー・感想・評価

瑠璃も玻璃も照らせば光る(2022年製作のドラマ)
3.8
ヤンシナ大賞作品(去年は生方美久『踊り場にて』)。
「ヤングケアラー」(いわゆる親ガチャ)という残酷な社会問題を題材にしながらも、ハートウォーミングでウェルメイドなドラマに仕上がっていて、その上に強力で発見のあるメッセージがある。すごくヤンシナらしい作品。

ログラインは...「うつ病の母と脳梗塞で入院中の父を持つ女子高生の光が、クラスの友人に頼まれて演劇部の照明を手伝うことになるが、親の世話と自分の青春、どちらを取るかで揺れる」物語。

テーマとしては、「どうせ全部終わるんだから頑張っても意味がない(頑張らなくていい)」と考えていた少女が、「世話を頑張るのはいいことだけど自分の好きなことも諦めないでいい(人と一緒に頑張ればいい)」と信じられるようになるという変化を描いている。

やっぱり見せ場が強いのが良いな〜ヤンシナらしいな〜と感じた。『踊り場にて』で言う、教室とか階段のシーン。

1つ目は、部室での光と瑠璃の対立シーン。頑張れない人と、頑張りたい人との正義の衝突を通じて、テーマを浮き彫りにさせている。「見せてないものはわからない」瑠璃の言っていることは正論だけどかなり厳しいので、もう少し時間かけて丁寧に描いて欲しいと思ったけれど、1時間尺ではこれが限界かなとも思う。

2つ目は、看護師さんが光にヤングケアラーについて教える場面。やっぱり第三幕に向けて主人公を動かすために誰かが背中を押す必要があるけれど、「やりたいことがあるなら我慢しなくていいの、そのために私たちがいるんだから」って説得力を持って言える唯一の存在が彼女だった。彼女の生活動線上に初めからいながらも、ちょうどいい距離感がある(瑠璃や友達が介護を手伝うよみたいな展開になると話が複雑になりすぎる)。

3つ目は、「瑠璃も玻璃も照らせば光る」の場面。ラ行の麻痺のために使われるニッチなことわざ(職業を生かした強いファクト)でありながらも、物語のテーマと接着する(光の背中を押す言葉になっている)。光を動かしたのは、特定の人物というよりはみんながパスを回していったという感じに思えた。母親や瑠璃ももちろんプラスになっているし、こういう象徴的なパワーワードを産める作品が1時間モノだと強いな〜。

ドラマって映画以上に「目的芸術」だと思っていて、社会に届ける意味のあるメッセージを美しく面白く伝えた作品が勝っている印象があるので、広告系出身の作家が多いのも納得。
今作は元看護師とのことで、職業を生かしているのも良いし、頑張らなくていいじゃんっていうテーマも今のドライな若者のインサイトを捉えてる。

他に良かった点
・名前をポジションと対応させるのも、作品を印象付ける上で効果的。『ちょっと思い出しただけ』も照生が照明やっていたな〜と思い出した。
・自己批判的な視点があるな〜と思った。間を埋めるみたいにしゃべりすぎてるな?と思ったところで、ちょうど「長台詞だね」ってツッコミが入る。
・病気に関する詳しい描写や変化を避けている。『ルックバック』で問題になったように繊細な題材なので、暴走したり回復したりもせず、限定的な描き方に抑えてる。
・自分勝手に言いたいこと言って去っていく瑠璃に対する「羨ましいな」はいい台詞だな〜と思った。その前の演劇ごっこがそんなことする子には見えないんだけど、ストレスと憧れが共存しているんだな。
・『大豆田』の豊島花と、『サマーフィルムにのって』の祷キララ、ネクストブレイク女優のキャスティングも見事だし、崎山蒼志らしくない爽やかな主題歌も好き。

気になった点
・友達役の芝居がオーバー。演出の責任が大きいと思うけど、照明に誘うシーンとか特にもう少し工夫できたんじゃないかと思う。
・父親が初めから入院しているのは改変らしく、それによってテーマには忠実になっているし、悪者はいなくなっている一方で、残酷さは増している。こんな辛い状況の子を瑠璃がさらに責めるという非常に厳しい展開になっていて、当事者を救うエンタメになっているのかは疑問。ヤングケアラーという言葉すらも知らずに、ただ真っ直ぐに両親を助けたいというひたむきな主人公像だから成立しているけど、現実はもっと困難なのではないかと思う。
・平家物語とか数学の証明のようなユーモアのためのモチーフがイマイチ効いてないと感じる。『踊り場にて』の「羽生さん」とかを思い出すとやっぱりあちらはセリフひとつひとつが強かったな〜と思う。
・阿部寛のモノマネを入れ込んできている良し悪し。遊びにはなっているけど、何言っているかわからないみたいなネタをやりにきてるので、作品の世界観は明らかに崩れてる。

脚本
https://www.fujitv.co.jp/young/scenario/34th_01.pdf
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