森崎

犬神家の一族の森崎のネタバレレビュー・内容・結末

犬神家の一族(2023年製作のドラマ)
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このレビューはネタバレを含みます

また新しい『犬神家の一族』だった。
真っ白なゴムマスクや菊人形、水面から突き出た脚などなど、センセーショナルにしようと思えばいくらでもやりようのあるこの作品を「愛」というテーマでしっとりとまとめ上げる。歴代の印象が強いけれどこれもこれで悪くない、そんな感じ。


特に印象的だったシーン。
「今年で菊は終わりにしましょうね」
「この家で菊が好きなのはお父様だけでしたから」
この台詞の後、佐清を見て一瞬たじろいだ様子を見せた松子と「母さん…」と呟き涙する佐清の姿。二人が何を思い何を感じたかは他人が気づくことはできないし言葉に表すことも到底出来ないと思わせる瞬間だった。その後の溢れてしまった憎悪が物悲しい。

このように、『犬神家の一族』の話の流れを知っているからこそ「おっ」と思わせる演出もあったように思う。
佐武と佐智の底意地の悪さや性格が補強され、そもそも勝ち目の無い彼らが珠世を襲うまでの流れが腑に落ちたり。
松子や珠世の佐清に対する視線や目の演技もそう感じられた。
本編冒頭の列車内でのシーンでの佐清を見つめはっとする松子。犬神家というどろりとした檻に縛られた中で生きてきた彼女はこの瞬間嘘に気づき、そして嘘を信じて生きると決めたのではないか。しかしついぞ得られなかった愛への憎しみにそれが出来なかった今作の彼女にはどうしようもなく人間味が感じられた。歴代の圧倒的な姿とはまた違う、母親としての姿。


そして物語は佐清にも焦点を当てる。
本編最後の問いの答えはわからない。正直なところ個人的にはすっきりとした流れが最後の最後に濁ったように思えて好みではないけれど、その引っかかりやわからなさが人間だよなとも感じる。
実は視聴後に色々考えすぎて「静馬が誰も恨んでいないというのはあり得るのか?」「もしかして今収監されている人物は静馬では?そもそも火傷を負った人物の前提が間違っているとしたら???」とぶっ飛んだ発想になったりもしたので佐清の証言に頼るしかないことに疑問を感じた金田一の動きもあながち無いとは言い切れないし、何が合っているとも間違っているとも言えないのだ。

一方でわかりやすくキャラ付けされた刑事コンビ(メモ魔の吉井刑事とスタイルが良すぎて立ち姿が妙に格好ついちゃう無骨な沢田刑事)の浮きっぷりを見ていると物語としてもわからないところがあるから面白いんだよな。とも感じたりもしている。

それでもわからないことが多すぎて悔しいなあ。
今作では湖面に浮かんだ脚がどうしようもなく悲しく、寂しく見えたのに。


『龍騎』や『シンケンジャー』など特撮作品でのキャラクターの使い方や映画『刀剣乱舞』での本能寺の変の解釈や展開など、脚本を担当した小林靖子はある程度型が決まっているものを再構築するのが抜群に上手いのでは…と考え始めている次第。このシリーズがまた続いてくれるならば題材や俳優陣だけでなく脚本家の人選にも注目したい。(ハセヒロ版も好きだよ…密かに再登板待ってます)
森崎

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