ねまる

犬神家の一族のねまるのレビュー・感想・評価

犬神家の一族(2023年製作のドラマ)
4.2
加藤シゲアキ版や池松壮亮版で既に見ているので、この事件のストーリーについては知っていたのに、それをひっくり返してくる脚本に、鑑賞後放心。

犬神家の一族の一人一人が、疑わしき容疑者としてではなく、人間としてそこにいる。
だからこそ、その人間のする所業に、悍ましさを感じてしまうのかもしれないなと思った。

犬神家の一族の相続ばなし。
それは現代の価値観の中ではどうなんだろうか?自らの娘でありながら、飴玉ひとつもらえなかった3姉妹。そこに息子がいたら息子には相続の可能性がある。それを正当として受ける。本当に?
今映像化するならどうか?このドラマではひとつの解釈を与える。
原作は原作としてある。フィクションを映像化する。今映像化するからこその武器をこのドラマでは最後に仕込ませた。

前半は、演出や展開がシンプルだなと思ったからこそ、後半の驚きったらない。
「鎌倉殿の13人」の演出の吉田さんが撮る、シンプルだからこそ、脚本、役者の演技が際立ち、それでいて光と影を最大限生かした映像。


ちょっともうネタバレなしでいくのがしんどい
ここからネタバレ!!

解釈1(善意)原作通り
松子は、自分の息子に相続を受けさせるため、義姉妹の息子たちを殺害、
白マスクは佐清ではないと気付き、湖に沈めた。
生還した佐清の供述の通り、母を殺人犯にしたくなかった善意で装飾して周り、捜査を混乱させた。
結果として、自分と幼き頃から親しき珠世の2人で全財産を継ぐことになったが、それは結果である。
善なる2人が混沌とした犬神家を継ぐことになり、ハッピーエンドだ。
名探偵が突っかかってきたが、血の通った人の起こした犯罪を解き明かすことに狂っているだけである。
「金田一さん、あなた病気ですよ」
名探偵という立場で、飄々と謎解きをする金田一への、佐清からの強烈なカウンター。


解釈2(悪意)
我らが名探偵金田一耕助がたどり着いた新たなる真相。それは、佐清、珠世もまた、犬神家の一族の一人なのだという解釈。佐清の事件の装飾、また全てを手に入れる幸運は本当に善意なのだろうか。もし、佐清が母親と静間を操っていたら。
今回の静間、松子らへの復讐というより、自分は与えられなかった母の愛情という面にフォーカスしていて、この解釈だとより悲劇に見える。それを目だけきょろきょろさせて、立ち方や歩き方を佐清と変えて、やってのけた金子大地はやっぱりNHKの申し子。
逆光の面会室、手錠に繋がれた佐清という構図も、新しいし、金田一に対しての鋭い目で、この子に秘められた悪意が透けているようにも見えた。

この解釈1.2のどちらもが、真実はひとつであるはずにもかかわらず両立するところが今回のドラマの何より恐ろしいところだった。
ねまる

ねまる