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犬神家の一族のぐるのレビュー・感想・評価

犬神家の一族(2023年製作のドラマ)
4.8
吉岡秀隆版金田一耕助シリーズは「愛」を主軸に物語が展開していくが、最も純粋でそれゆえに狂おしい「愛」の物語という印象。
「求めても求めても絶対に手に入らない愛情を求めた、その結果です」
「愛は残酷だ でもそれだけではない そのはずだと思う」

また同時に「犬神家の一族」史上、最も恐ろしい佐清と最も哀しい青沼静馬の物語。
祐清と金田一耕助の対話のシーンに慄然とさせられた。

横溝正史原作における「愛」は「肉欲」に近いので、こんな解釈ができるとは思っていなかった。孤独に育った佐兵衛翁が求め続けた愛、母と子の愛、そして佐清と静馬の戦友同士としての愛。

生家を追い出され、早くに母を亡くし、戦場で深傷を負い、何もかも持たない静馬が松子夫人に求めたのは、「財産でも復讐でもない、母親」だったという新解釈の切なさ。母の仇のはずの松子夫人が写った写真を見て「こんな写真を持たせてくれる母親がいて羨ましい」と呟く悲しさ。おどおどと松子夫人を見つめ、それでも松子夫人が身の回りの世話を焼くことを嬉しく感じる赤子のような想い。

大竹しのぶによる松子夫人が圧巻。彼女がどこまでも情の深い人物なのがこのドラマの解釈に凄まじい説得力を与える。情が濃いがゆえに、自分たち姉妹とその母たちには「飴玉ひとつ与えてくれなかった」父の愛情を奪った菊乃と静馬を憎み、「何も与えてくれなかった、父の遺したもの、それをなんとしてでも我が子だけへはと」執着し、遺産相続に差し障るにも関わらず、愛する我が子になりすました静馬を許せず手をかけるほどの情。

佐兵衛翁はなぜ「あまりにも過酷な」遺言状を遺したのか。原作や市川崑版などは、死してなお一族を操る不気味な佐兵衛翁という描写がなされてきたが、「佐兵衛翁から続く愛情の欠如が継承されてしまったがための一族の悲劇」というこの作品での答えが、斬新ながらなんとも情緒に訴えるもので、後半の畳みかけにはただただ唸らせられた。
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