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キラー・ビーのblacknessfallのレビュー・感想・評価

キラー・ビー(2023年製作のドラマ)
3.8
各話のオープニングに"実在の人物、団体等の類似は意図的である"てテロップが挿入されるんだよ。
実話ベースで何ならかの事件を扱う場合、めんどうを避けるため明らかにそれなのに実在の人物や団体には関係ありません的な文言が入るのが定石なんでかなり驚いた。
訴訟上等で何か本気で告発する気なのかと。

ナイジャというカリスマ的人気のポップス歌手には狂信的なファンの集団『スウォーム』というファンダムがある。ナイジャのライブや新曲のリリース等の情報交換、ナイジャについて語り合う穏当な活動が基本だが、彼等はSNS等でナイジャを批判、誹謗する人物を見つけるとネット場で激しく攻撃する。中には自宅等の個人情報を晒す悪質なメンバーもいる過激な集団。
その『スウォーム』の一人である黒人のティーンエイジャーの女の子が自分の前でナイジャをディスった人々を殺していきシリアルキラーになるという話。

でも、1話目だけだとそれとわからないように作っている。この仕掛けはおもしろかった。
最初の犠牲者は主人公の義姉の彼氏。コイツがなかなか酷いヤツでDVモラハラ野郎の上に浮気者で主人公をセックスを迫るクズ笑
コイツの酷い仕打ちのせいで義姉は自殺してしまう。クズ野郎は葬式にも来ない。
この流れでクズを殺るからてっきり復讐かと思ったら殺られるクズが理由を問うと「ナイジャをディスしたからよ🤬」て言うんだよ。確かにそのシーンあったけど、「ええーー、そっち!!??」😮てなった。

以降、逃亡生活の中でポールダンサーになったり変なスピリチュアルサークルに取り込まれながらナイジャ絡みで殺戮を繰り広げて死体の山を築き上げていく主人公。かなりおもしろいんだけど、こんな実話あんのかよ!?と不信に思い調べたら、ビヨンセの狂信的なファンをネタにした都市伝説だと…それであんな強気のテロップ出してたのかよ。完全に引っ掛かった笑
これはブラックでシニカルな現代の寓話だったんだ笑

そう言われると狙いがよくわかる。主人公に殺られる人達の現代的な自意識の拗らせ方や、その不満をセレブをSNSで誹謗することで紛らわす卑俗な心理とか。
でも、何より狂信的ファンのヤバさの演出の切れ味がいい。
ナイジャより好きなミュージシャンがいると聞くと「○○はグラミー1冠でしょ、ナイジャは26冠よ!」とか本来優劣のない好みに対して俗なマウントを取る。こういうのSNSでけっこう眼にするよな笑

このドラマ、こうしたポップスターの狂信的ファン精神の危うさをかなり辛辣に皮肉ってるんだけど決して嘲笑う対象にだけしてるわけじゃない。
主人公は逃亡先で自分はナイジャと友達だとかナイジャの母親と密になりナイジャを紹介されだのその手の人特有の妄想を語る。このインナーワールドこそが彼女の唯一の寄る辺だから。
しかし、これ等の妄想は現実の前では無力で決して報われることはない。んだけど、最終話で彼女の妄想は現実になりナイジャと親密な関係になることを暗示するラストを迎える。

これは彼女がやった(殺った)ことを思うと、アンチクライマックスで一般倫理的に問題で怒る人もいるとは思う。
でも、彼女はここまでの人生、散々なんだよ。孤児で里親から疎まれ学校ではいじめに遭い、心の支えだった唯一の味方でありナイジャファンだった同士であり保護者であった義姉を失った彼女にはナイジャしかなかったんだよ。その事情を見せられてるから、報われてはいけない想いなんだけどこれでよかったと思ってしまった。
せめてエンターテイメントの中でぐらい認められない歪むんだ想いが報われてもいいじゃないかという気持ちになった。センセーショナルな事件の関係者としてバスろうとして暴走した仲良しバカティーンエイジャー女子二人組を描いた『トラジディ・ガールズ』の時とまったく同じ感動があった。
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