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全ラ飯のshinobuのレビュー・感想・評価

全ラ飯(2023年製作のドラマ)
5.0
サムネの印象よりも、とても真面目かつ人間味に笑える内容で良かったです。片想いの切なさ、同性への戸惑い、世間体への不安、両片想いのじれったさ、やきもちからの勘違い、相手を誠実に思うが故のすれ違い…BLの勘所を全て押さえたうえで、脚本の筋運びの巧みさも活きているドラマでした。BLものはやっぱり「ラブコメ&むずキュン」がいいなと思わせられました。いきなり恋人関係の話も多いなか、じわじわと気持ちを作り上げて盛り上げていく話はハラハラが止まらないので面白いです。

映像が映画のようにきれいで、部屋の小物一つ一つまで気を配っていて作品への愛と静かな情熱を感じました。

主人公の亡き祖母・みづ知さんの千葉県市原市にある設定の家はかなり立派なお家ですね。田園風景の中にある何気に田舎の豪邸的な。観ているうちにだんだん間取りが分かってきて、あ、ここで2人が最初に倒れたのか、あ、ここに颯太の荷物が、あ、ここから全裸を見られたのか、あ、居間とこうつながってるんだ、あ、ここからデーブルが見えるんだ、とオンライン聖地巡礼みたいなことをしていました。この家が主要舞台なんですが、これが東京都心部から2時間半のところにあるっていうのが、リアルでじれったくて良かったです。颯太が真尋にほぼ毎週末に会いに行くのに遠すぎず近すぎないのが、恋愛距離としてイイ感じでした。颯太の気持ちが表れる調度イイ距離で。

それと、このドラマは主人公・一条颯太を演じた近藤頌利さんという俳優の演技力を広く見せることができたのも一つの意義があったと思います。ずっと舞台でご活躍されてきたとのこと、これからは映像にもぜひ軸足を置いて欲しい俳優さんです。最初、宝塚出身の女優さんが「男装」をしているのかなと思った程、小顔キレイでスラッとした方です。身体全体を使ったジェスチャーや表情表現はやはり分かりやすくて上手い。舞台俳優さんの積まれた「基礎」が伝わってきました。でも一番の魅力は「声」だったような気がします。正確には「声色」。穏やかで温かいものを感じました。どうしても隠せない品の良さや優しさというものは、その俳優さんの武器だと思うので、それが自然とオリジナリティになっているのだと思います。この方が脱いでも変なやらしさはなく、とても爽快でした。お風呂上がりかなと思うくらいの。例えるならパリコレモデルさんがセクシーな衣装を着ても変なやらしさがないのと同じですね。この方の演技は、憑依でもなく、感情移入でもなく、撮影という状況を利用してもう一つの人生を生きているという気がしました。言うなればパラレルワールドに入ってしまった状態。それくらいその時の役の感情を一瞬にしてご自身の中に生じさせているように思えました。素人目線ですが撮影っておそらく短い時間ですぐに次のシーンの状況に適した感情を生まないといけないと思うんですが、近藤さんはその呼び起こしのスピードに類まれな才能があるような気がしました。でないと、ワンシーンワンシーンどれをとってもあれだけ説得力のある表現はできないと思います。撮影時系列もバラバラだと聞いたので余計ですね。エリート官僚の役ですが、品のある所作によって無理がなく、PCを見つめる賢そうな顔も良かったです。まあでも、こういう人が「真剣にやきもちを焼く」姿はどうしてあんなに面白いんだろ。それでいて告白するシーンの姿も真剣で声の抜き加減が絶品絶妙で感動しました。なんていうのかな、小手先とは真逆の演技なんですよ。圧巻、圧倒される、時間を忘れる、といった感じでしょうか。そんなに気持ちをぶつけられると勘違いしそうなのでやめて下さいって言いたくなるような?詳細は各話エピソードにまた書きます。
前に、名優・藤田まことさんのインタビューでこんな話がありました。聞き手が藤田さんに「今後の舞台ではどんな女優さんと共演したいですか?」と聞きます。藤田さんは「最後の場面で、2人で抱き合ったままどん帳が降りるんだけど、どん帳が降りても私にしがみついて泣き続けている女優さんはいいねえ。逆にどん帳が降りた途端にぱっと切り替わる女優は嫌だねえ」と言いました。これまさに、近藤頌利さんのことで、「どん帳が降りても泣き続ける俳優」の演技だと思いました。あと、近藤さんの演技って誰かに似てるなーとずっと思っていてやっと思い出したんですが、大泉洋さんです。顔自体は違いますが、「声の質感」「情の入れ方」「表情」が大泉洋さんと似てます。間違いないと思います。とりあえず素晴らしい俳優さんが映像界に誕生しました。

ゆうたろう君の随所随所の切ないエモーショナル表情も納得でした。お若いのに「感情」を分かっていらっしゃる。真尋はツンデレなので仕方ないですが、結構強いきつい言い方も多く、嫌われないの?大丈夫か?と聞きたくなった箇所もありましたが、その正直で純なところに颯太が惹かれたのであればいいかとも思う。チェリまほのときのゆうたろう君よりだいぶ演技が上手になられて驚きました。辛さや哀しさを目と口で表現できていて見応えと共感がありました。この顔の美しさと可愛い体型でないと成立しない話も多いので、今後のBL作品にも期待大です。

リュウさん役のフィガロ・ツェンさんも近藤さん同様今回初めて拝見しました。この作品がラブコメだとして、そのコメディー部分の主役はリュウさんでした。天然キャラなので、周りを振り回す振り回す。10話で颯太に「ほっといていいの?」と聞かれるシーン。あそこ、颯太はド真剣(ここの近藤さんの演技も肩で息しててすごいんです、詳細は別記)なのですが、リュウさんが一度後ろを振り向いてからの「何が?」と聞いたところで手を叩いて大笑いしました。あと、11話で颯太にとっては一大事になったときも、リュウさんは鼻歌混じりに野菜の陳列しているところも大笑いでした。「散々振り回しといて鼻歌かい!」って言いました。この俳優さんもうまかった。リュウさん、可愛いです。

小町ちゃんを演じた片山友希さんも初見(たぶん)でしたが、ちょっと舌足らずなセリフ回しが役にぴったりで、片想いをしながらもぐいぐいな厚かましさに笑いました。颯太に「彼氏のふりをして下さい」「私のこと一度もそんな目で見てなかったですよね」と普通に言うシーンと自分のことを「当て馬」って言うシーンも笑いました。この俳優さんがまたそのあたりのセリフを分かりやすく区切って聞き取りやすく話すので、うまいなあと思いました。颯太を引っ叩くシーン、もっと強くても良かったと思いました。あ、でもあれぐらいじゃないと好きな気持ちが嘘になりますかね。

ということで、笑えて、ジーンときて、考えさせられて、ハラハラして、きゅんきゅんして、微笑ましくて、ロス確定のエンタメの大事なものを全部詰め込んだ幕の内弁当のような作品でした。って飯にかけちゃいましたっ!
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